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マクラーレン帝国の興亡を握るモナコとカナダ。  

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2008/05/21 00:00

マクラーレン帝国の興亡を握るモナコとカナダ。 <Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 5月11日のトルコGPでF1シリーズは全18戦中5戦を消化したが、フェラーリの独走が続いている。

 第5戦終了時点のコンストラクターズ・ポイントは、フェラーリが63点でトップ。追うマクラーレンが44点でその差19点とさほどの開きとは見えないが、内実は点差以上に大きく離れているのだ。

 ここまでの5戦でフェラーリ以外のドライバーが勝ったのは、開幕戦オーストラリアのL・ハミルトン(マクラーレン)のみ。あとはライコネン2勝、マッサ2勝。おまけにフェラーリのワンツー・フィニッシュが2回あり、ドライバーズ・ランキングはライコネンが35点でトップ、マッサがハミルトンと同点2位。このままフェラーリの独走が続くと、チャンピオン争いの興味がチーム内バトルに絞られてしまいそうな雲行きである。思い起こせば、昨年はちょうど逆パターン。伝統のモナコGPなど、アロンソとハミルトンのマクラーレン・コンビがフェラーリ勢をまったく寄せ付けず、その全盛を誇っていたものだ。

 では、マクラーレン帝国に反撃の可能性は残されているか? その試金石となるのが5月25日の第6戦モナコと、その2週間後の第7戦カナダだろう。このあたりで反撃できないとマクラーレンはズルズルとフェラーリに離されてしまう。

 昨年のモナコとカナダでマクラーレンがフェラーリを一蹴した勝因は、うねりの多い路面にマッチしたマシンを用意できたからである。具体的には、縁石を乗り越えて着地した後のマシンの姿勢がすこぶる安定していて、そこからの加速でライバルたちを引き離していた。サスペンションの制御が卓抜で、低速コーナー脱出時のトラクションに秀出ていたのである。そこがフェラーリの弱点で、逆の見方をすると、今年のフェラーリの強さのひとつは、苦手な縁石乗り越えを克服してきたからだともいえる。

 ではマクラーレンのチャンスは昨年より小さくなったか、といえばその通り。

 しかし、モナコはクラッシュが多く、セーフティカーの出動もあり、すぐに周回遅れのマシンに行き遭うなど不確定要素が濃い。ピットストップ作戦いかんによってはマクラーレンの2連勝も多いにありうる。事実、トルコGPではハミルトンが意表をつく3回ピットストップ作戦を展開。マッサを下すまでには至らなかったものの、ライコネンを封じ切ってフェラーリのワンツー・フィニッシュを阻止している。モナコは1回ストップ作戦も可能なほど戦略にさまざまな選択肢があるし、戦況によって戦略を大胆に変える柔軟な思考が勝利を呼び込むことも大いに考えられるのだ。

 モナコの2週間後にあるカナダでは、タイヤの使い方がレースの焦点だ。

 モナコは低速、カナダは高速コース。空力セッティングはモナコがハイダウンフォースなのに比して、カナダは極端なローダウンフォース。ところが、両コースとも路面がつるつるでグリップがきわめて低い。そのため投入されるタイヤはモナコもカナダもソフトとスーパーソフトの同じコンパウンド(ゴムの硬さ。ブリヂストンはハード、ミディアム、ソフト、スーパーソフトの4種類を供給し、レースによって隣り合う2種類を投入。レース中に必ず2種類のタイヤを使わなければならない)。

 カナダでは、一発のタイムは出るもののグリップ落ちの激しいスーパーソフトをなるべく履かないタイヤ戦略が重要になる。たとえば、昨年の佐藤琢磨はレース終盤、うまいピットストップのタイミングでスーパーソフトをわずか3周でソフトに履き替え、スーパーソフトのグリップダウンに悩むラルフ・シューマッハー、そしてチャンピオンのアロンソをオーバーテイクして6位入賞の奇跡を演出した。似たことがトップ争いに起きないとも限らない。タイヤの使い方によってマシンの劣勢を跳ね返すこともできる。

 ちなみに、昨年のカナダはセーフティカー出動4回の荒れに荒れたレースだったが、これを制したのがハミルトン。それが彼のF1初優勝だった。モナコではアロンソとハミルトンのワンツー、カナダはハミルトン初優勝。いずれもマクラーレンが強さを発揮できるサーキットである。

 マクラーレン帝国の興亡この2戦にあり! とするゆえんである。

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