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グリンキーの受賞とトレンド変化。
~サイ・ヤング賞投手の投球術~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byGetty Images

posted2009/11/27 10:29

グリンキーの受賞とトレンド変化。~サイ・ヤング賞投手の投球術~<Number Web> photograph by Getty Images

ロイヤルズではセイバーヘイゲン('85年、'89年)、コーン('94年)に次ぐ3人目の受賞者となった

 ザック・グリンキーがア・リーグのサイ・ヤング賞を受賞した。それも、総投票数28のうち25票が彼を第1位に推すという地滑り的圧勝だ。よかった。アメリカの記者諸氏も、見るべきところはしっかり見ていたのだ。

 8月ごろから、彼は私の本命だった。弱小球団ロイヤルズのテレビ放送はなかなか見られないが、一度でもその投球を見れば、だれしも背中を後押ししたくなるにちがいない。私はそう思っていた。

 やや神経質そうなほっそりした顔立ち。内省的で控え目な態度。沈着なマウンドさばき。グリンキーの見た目は、いわゆる剛球投手の印象から遠い。直球の最高速度は155kmに達するが、生命線は絶妙の制球力と変化球の切れだろう。大きく割れるカーヴも魅力的だが、打者の手もとで急速に沈み込む「縦スラ」には思わず拳を握りしめたくなる。

わずか16勝という勝ち星でサイ・ヤング賞を獲得?

 要するに、グリンキーには「投球術」がある。技巧派というよりは頭脳派の投手。打者を追い込むのが早く、追い込んでからの決め球に威力があるのはもちろんだが、たとえばフライアウトの数が非常に多いのは、本拠地カウフマン・スタジアムの外野の広さやロイヤルズ外野陣の守備能力の高さ(と同時に内野の守備の弱さ)を見越してのことだろう。防御率=2.16、WHIP(1イニングあたりの被安打と与四球の合計)=1.070という数字(いずれもリーグ1位)は、その投球内容を十分に証明している。

 それにしても、16勝という勝ち星の少なさは異例だ。2006年のナ・リーグでも、やはり16勝投手のブランドン・ウェブがサイ・ヤング賞を受けているが、あの年はそれで最多勝だったのだから仕方がない。ア・リーグの場合では、1994年のデヴィッド・コーンまでさかのぼる必要がある。ただご承知のとおり、あれはストライキのためにシーズンが短縮された年だった。コーンの先発数は、グリンキーより10試合も少ない。

所属のロイヤルズは地区最下位で、チーム打撃も絶不調。

 まあ、グリンキーの勝ち星が少ないのも無理はない。なにしろ彼が属するロイヤルズは、今季もア・リーグ中部地区最下位(65勝97敗)と振るわなかったのだ。グリンキーは33試合に先発して、16勝8敗の成績を残したわけだが、敗れた8試合での味方の総得点は15にすぎない。なんとも気の毒な数字ではないか。

 ちなみにいうと、結果なしに終わった9試合での総得点も22止まりだ。逆にグリンキーの側からすると、先発して相手を0点もしくは1点に抑えながら勝利投手になれなかったゲームは、18試合中6試合もある。

<次ページに続く>

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