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ジャイアンツの若き韋駄天、藤村大介。
「50m走5秒8」という“絶好調”秘話。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2011/06/29 11:55

ジャイアンツの若き韋駄天、藤村大介。「50m走5秒8」という“絶好調”秘話。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2007年度の高校生ドラフトにおいて1巡目指名された藤村。当時「将来は盗塁王のタイトルを取りたい」とコメントしている

 巨人の新星、藤村大介が熊本工時代に「5秒8です」と即答したときの意志の強そうな目が印象的だった。

 その頃の熊本工には「快足トリオ」と呼ばれていた3人の選手がいた。藤村と、加久統之と、古江哲朗だ(後のふたりは現在、共に中央学院大でプレー)。

 監督の林幸義がベースランニングのタイムについてこんな話をしていた。

「うちの場合でいうと、15秒台は普通、14秒台は速い、14秒台前半はもう才能の領域。だから、13秒台はちょー速い。通常は1学年に1人いるかいないか。それが今年は13秒台が3人もいる。考えられませんね」

 そして、さらにこう続けた。

「直線で走ったら加久がいちばん速い。中学時代、陸上で全国大会に出てますからね。でも、ベーランになったら加久と藤村は同じくらいかな。一塁ベースまでだったら藤村の方が速いよ。打ってから前傾姿勢に入るのが早いから、一気に加速できる」

 よく言われることだが、足が速いからといって、それが野球の走塁にすぐに結びつくわけではないのだ。

 ところが、である。

 改めて3人に50メートルのタイムを確認すると加久は、ちょっと考えたあと「6秒ぐらいです」と言ったのに対し、藤村は冒頭のように答えたのだ。

ストップウォッチの操作ミス、あるいはハッタリか――。

 話が違うな、そう思ったが、藤村の強い目に気圧され、聞き返すことができなかった。

 コーチの野田謙信はその藤村と加久の違いについて、こんな風に話していた。

「藤村は、どちらかというと、チームプレーができない方。でも、どんな状況であれ、結果を残す。プロ向きですよ。エラーをしても、そのあとヒットを打てばオーケーみたいなところがありますから。それに対し、加久は人が良すぎて、なかなか力を出せないんです」

 その違いは、二人の話す感じからも、よく伝わってきた。

 ただし、「5秒8」というタイムはありえない。加久は陸上をやっていたから、そのあたりのことは知っていたのだろう。

 正確に計測したとして、もし最初の50メートルを5秒8で走れたら、陸上競技界の常識でいえば、100メートル換算で10秒台前半で走れる計算になるのである。

 悠々全日本クラス、あるいはオリンピッククラスの可能性さえある。

 おそらく、ストップウォッチの操作ミスか、あるいはハッタリか――。

 だが、そのどちらにしても、確かにプロを目指すのであるならば、それぐらいの思い込みの強さ、度胸があった方がいい。

【次ページ】 “絶好調男・中畑清”伝説の系譜にある藤村のプロ根性。

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