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プロの世界はこうでなきゃ〜久々のドタバタ劇〜 

text by

安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2007/02/08 00:00

プロの世界はこうでなきゃ〜久々のドタバタ劇〜<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 いやはや、面白いの何のって。ウインターブレークが明けてリーグ後半戦がスタートするやいなや、いきなりの監督解任騒動である。それも同じ日にまとめて3人も(新記録達成おめでとう)。

 ハンブルクのドル、グラッドバッハのハインケス、バイエルンのマガート。いずれも成績不振を理由にクビになった。降格ゾーンから抜け出せないハンブルクとグラッドバッハは当然だ。ハインケスには殺害を予告する脅迫状まで貰っていたので、むしろ本人より妻のほうがホッとしたはずだ。2年連続2冠を獲得したマガートとて、最終的に4位以下になろうものならチャンピオンズリーグ出場権さえ失ってしまう。そんな事態になればバイエルンの金庫は来季、年間予算の2割に近い30数億円の減収になる。ケチで鳴るバイエルンは、アラート(非常警報)発令だ。

 平日開催となった19節、3チームはともにホームで引き分けた。これでフロント陣の腹が固まった。こうなると後任監督選びが急を要する。ハンブルクはというと……、あれれ、ミュンヘンからもうマガートが空港に到着したではないか。クビになって数時間しか経っていないというのに何と手回しの良いことだろう。OBだけにマガートとHSVはいまでもたやすく連絡できるのだ。だが交渉はうまくいかなかった。

 代わりに白羽の矢が立ったのはローダJCのステフェンスだった。以前に記者会見でステフェンスが見せた傲慢さに私は正直、よい印象を抱いていない。この人、なにしろ強引過ぎるのだ。指導でも対人関係でも。そしてオールバックの髪型も(関係ないか)。

 HSVは焦っていた。2月1日にドルを切って、3日には次のリーグ戦がある。2日昼、ステフェンスはドイツのマスコミへ「自分が次の監督になるだろう」と公言。午後には代理人を伴い、ベルリンへ飛んだ。ハンブルクは翌日にアウェーでのベルリン戦を控えていた。市内のホテルでクラブ幹部と話し合い、正式に監督就任が決まった。1月27日の初交渉からカウントしてたった1週間の早業だった。というわけで実際には、27日のビーレフェルト戦でドルのクビが事実上決まっていたのである。で、ステフェンス初采配の結果だが、ロスタイムで決勝弾を許してしまい、1−2の惜敗。パチパチパチ(あっ、失礼)。

 そしてバイエルン。せっかく獲得したFWポドルスキーはベンチ要員、ファン・ボメルとファン・ブイテンの「ファン・ファン」コンビのパフォーマンスは凡庸。ラームとシュバインシュタイガーはイエローをもらう回数が増えている。ダイスラーは突然引退してしまった。唯一の希望はハーグリーブスが怪我から復帰したことくらい。

 元々マガートは自らの成功体験を元に、体力重視の傾向が強い指導者だ。夏のキャンプでは屈強な選手が「こんなの初めて」と根を上げるほど強烈な走り込みをさせている。だから体力で負けることはないが、反面ブレーメンやシャルケのように技術と戦術で向かってくる相手には徐々に勝てなくなっていた。

 そのマガートの後釜はヒッツフェルトとなった。90年代に大成功を収めた58歳の名将だ。「私の心はつねにバイエルンにある」とフロント陣を感激させるセリフを吐いたヒッツフェルトだが、3年間のブランクはやはり大きい。案の定、986日ぶりに指揮した結果は散々だった。48回目のバイエルン・ダービー(対ニュルンベルク)で0−3の惨敗。相手に6年半ぶりの白星を献上してしまった。

 ヒッツフェルト自身は好人物である。温厚、実直、誠実な性格は南部人気質に合う。でも選手起用や戦術で斬新なアイデアに欠ける。おまけに連れてきたアシスタントコーチが長年の相棒ミヒャエル・ヘンケである。人望がなく監督としてまったくダメだったヘンケがまたもや、ヒッツフェルトの虎の威を借りるように振舞う姿を私は見たくない。

 ヒッツフェルトの契約期間は半年。「すぐに結果を出せよ」の暗示が含まれている。ステフェンスは1年半。「そんな短期間じゃ、やらないよ」とゴリ押ししたようだ。クラブ史上初の2部降格となっても得意の傲慢トークが出てくるのか、私は密かに注目しているのだが。

 こうなると優勝争いはシャルケとブレーメンに絞られる。4日の頂上決戦を制したのはアウェーのシャルケだった(2−0)。う〜〜ん、49年ぶりのリーグ優勝が現実味を帯びてきたぞ。優勝したらあの何も名物のない中途半端な町は大爆発するだろう。クラブは勝利ボーナスとして500万ユーロ(7億5000万円)を用意した。初めて見たとき、失礼ながら「50歳くらいかな」と思ったスロムカ監督(39歳)には間もなく、新たな2年契約が提示される予定だ。

 暴動による死者、300億円スター、怪しい石油成金、営業目的の日本人選手獲得。魑魅魍魎とした欧州サッカーのなかで、地味な印象が先行するブンデスリーガがこれほど面白いとは思わなかった。私はいま、成り行きの面白さに笑いをこらえるので必死である。

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