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ベンゲルとアーセナルの
「死に至る病」。 

text by

田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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photograph byJamie McDonald/Getty Images

posted2009/05/25 06:01

ベンゲルとアーセナルの「死に至る病」。<Number Web> photograph by Jamie McDonald/Getty Images

「(私が監督になってから)今夜ほどがっかりしたことはない。ファンは大一番を期待していたし、チームを応援していた人たちを失望させたのは本当に心が痛む」

 5月5日のCL準決勝セカンドレグ。マンUに1-3で敗れた後の記者会見で、アーセナルのベンゲル監督は伏し目がちに述べた。

 落胆したのも無理はない。プレミア奪回の夢を絶たれ、FAカップでも敗退していただけに、CLは残された最後の希望だった。仮にマンUに勝てなくとも、もう少し「ましな試合」をしたいという気持ちはあっただろう。セカンドレグはゲームの入り方も悪くなかった。選手の配置には疑問が残ったが、中盤の守備を固めてカウンター気味にチャンスを作るという意図は、きちんと見て取ることができた。

選択の余地はなかった。手持ちの駒が圧倒的に不足していた。

 しかしベンゲルの希望は、わずか8分間で潰えた。SBのギブスが勝手に足を滑らせ、パク・チソンに先制ゴールを決められた時点で、事実上の決着はついてしまった。

 不運といえば不運だったが、ある意味、この失点と敗戦は「必然」でもあった。

 第1戦を落とし、すでに後がない状況で19歳の若手を先発させる。しかも第1戦でミスをした選手を再び起用するのは、ベンゲルの本意ではなかったかもしれない。だが選択の余地はなかった。手持ちの駒が圧倒的に不足していたからである。

 マンUのエブラが「11人の大人と11人の子供の試合だった」と述べたように、選手の顔ぶれだけを見ても、両チームの「差」は歴然としていた。3分後にはC・ロナウドにフリーキックで2点目を奪われ、アーセナルは「格の違い」をさらに思い知らされた。 

 無名な「原石」をじっくり育て、チームの強化と財政の切り盛りを行なう。この手法はベンゲルの代名詞になってきた。少ない予算で「美しいサッカー」をする集団を作り上げ、マンUとタイトルを分け合ってきたのは「現代の神話」だといっていい。03-04シーズンには、プレミア(国内トップリーグ)の無敗優勝さえ達成した。これはイングランドでは実に115年ぶりの快挙だった。

 しかしベンゲルの「魔法」は、05-06シーズン頃から急に神通力を失う。同シーズンはCLでこそ準優勝したが、プレミアは4位に後退。ベンゲルが96年に監督に就任して以来、国内リーグでは最悪の成績となった。アーセナルは翌シーズンもプレミアの4位に低迷。昨季は3位に返り咲いたが、今季は再び4位に落ちている。それどころかシーズン中にはアストンビラに抜かれ、4強の座が危うくなった時期さえあった。

育成と戦術にこだわる間に、他チームは一気に戦力を増大させた。

 アーセナルは、なぜこれほど短期間に没落してしまったのか。理由の一つは、マンU、チェルシー、リバプールなどが、戦力と戦術を大幅にレベルアップしてきた点にある。

 たしかにアーセナルも、プレミアの中位以下のチームが相手ならば、試合の主導権を握ることができる。ビジャレアルとのセカンドレグのように、キープレイヤー(マルコス・セナ)を欠いた中堅チームが相手ならば、CLでも相応の力を見せ付けることは可能だ。

 ただし強豪が相手になると話は違ってくる。マンUとのCL準決勝や10日に行われたプレミアのチェルシー戦に象徴されるように、パスサッカーが通用しないばかりか、力の差を思い知らされるケースが増えてきた。アーセナルが必死にチャンスを作ってもゴールが生まれないのとは対照的に、ビッグネームを揃えた相手は、得点機を確実にものにしていく。後者のチェルシー戦などは「いなされ、軽くひねられた」印象が特に強かった。

 アーセナルが没落した二つ目の理由は、チームの内部にある。近年のアーセナルはシーズン途中で必ず息切れし、ずるずると後退してきた。そして最終的には「若手主体であるが故の経験の少なさ」や「小所帯のための選手層の薄さ」を敗因に挙げることを繰り返してきた。このような状況を招いたのは、監督のベンゲルに他ならない。

 ビエラやエドゥ(~05)を皮切りに、ベンゲルは、ピレス、コール、キャンベル(~06)、アンリ、リュンベリ、レジェス(~07)、フラミニ、レーマン、シウバ、フレブ(~08)と、毎年のように中軸を放出。その穴を主に若手によって埋めようとしたため、アーセナルは異様に主力選手の平均年齢が低いクラブになった。

 むろん、ベテランの放出によって、チームが活性化するケースもある。昨シーズン、「トータルフットボールの再来」と言われるようなプレーを披露したのは典型だろう。だが戦力がしっかりと補充されていなければ、選手に疲労や故障が蓄積し、やがてチームは失速することになる。現に昨シーズンも、アーセナルの勢いは春まで持たなかった。

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