MLB Column from WestBACK NUMBER

メジャーリーガを支える「目」 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/06/13 00:00

メジャーリーガを支える「目」<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 先日、アメリカで唯一の全国紙『USA TODAY』紙のスポーツ・セクションの1面記事(日本の新聞とは違いセクションごとに別れている)で、野球選手の“目”に関する取り組みを特集していた。個人的に興味をそそられたこともあり、この場を借りて紹介したいと思う。

 以前、一部の選手から、目(というより動態視力)の重要さを聞かされてはいた。たとえば2003年にシーズン途中で独立リーグからドジャーズ入りを果たしたリッキー・ヘンダーソンだ。彼は40歳を過ぎて現役を続ける上で大切なものとして、真っ先に動態視力を上げていたのだ。

 「マリナーズ時代にエドガー(・マルティネス)からアドバイスを受け、眼科医に通って動態視力を強化するようになった。それ以降、体力を維持するのと同様に動態視力を維持するトレーニングも必要だとわかった」

 自分が記憶する限り、目や動態視力に関するケアに熱心だったのは、ヘンダーソンのようなベテラン選手が主流だった。ところが今回の特集では、若手選手も積極的に取り組むようになっているのだ。

 例えば、メッツは専門家を雇い入れ、チームを上げて選手の動態視力強化を目指しているのだ。きっかけは今季メッツ入りしたカルロス・ベルトラン。彼が昨年までロイヤルズでやってきた練習が打撃向上に役立ったとのことで、メッツがキャンプから導入することを決定したというわけだ。

 実は2月のキャンプ取材の時に、実際にこの練習を見ているのだが、青か赤の数字が書かれたテニスボールを使用。それをピッチングマシンのような機械を使い、時速144〜240kmで投げ分ける。それを打席から打者はボールを見分けるというものだ。

 「実際にすべての数字が判読できるわけではない。でも自分の打撃に間違いなく役に立つ練習だ」

 推奨者のベルトランばかりでなく、他のメッツ選手の間でも信奉者が増えているようだ。

 また特集では、レンジャーズのデビッド・デルーチのように最近スポーツ選手が取り入れているレーザー視力矯正手術で打撃を向上させた選手も紹介。確かにコンタクト使用による弊害から、同手術を受ける選手が増えているのは事実だ。

 その一方で、ナイキとボシュ&ロムが共同開発した新型コンタクトが選手たちに好評らしいのだ。これは視力矯正目的ではなく、グラウンドで白い速く移動するボールをより鮮明に、立体的に識別するための色つきコンタクトらしい。前々回のコラムで好調ぶりを紹介したオリオールズのブライアン・ロバーツやツインズのPJ・ピアジンスキらが、すでに愛用者になっているようだ。

 もちろんヘンダーソンのように、地道な目のトレーニングも盛んになってきている。レッズのショーン・ケイシーやロイヤルズのマイク・スィーニーらは、カリフォルニアの有名な眼科医が開発した視角筋力強化プログラムを導入しているほか、メジャー数チームが同眼科医と契約し、キャンプに招聘しているということだ。

 つい最近まで選手たちの志向は、「より速いバットスイングをする」「より速い腕の振りを生む」ための、強靱な肉体づくりにあった。しかし最近のステロイド問題で、明らかにそれが行き詰まり状態に陥っていた。今回の特集記事を読んで、選手たちのあくなき探求心が新たな道を模索し始めたことを感じた。

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