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ヴォルフスブルクを取り巻く
「特殊事情」。 

text by

安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byJinten Sawada/AFLO

posted2009/04/06 09:04

ヴォルフスブルクを取り巻く「特殊事情」。<Number Web> photograph by Jinten Sawada/AFLO

 日本人選手2人が所属するVfLヴォルフスブルクが近年にない快走を続けている。リーグ3位はチャンピオンズリーグ予備戦への出場権が保証されるポジション。並み居る強豪を押しのけての上位進出にさぞかし注目が集まっている……はずだが、実際はサッカーファンの話題に上ることはなく、ハッキリ言って“地元以外の人間からはまったく愛されないチーム”なのである。

 そうなっている原因は1にも2にもヴォルフスブルクの特殊事情による。百科事典には街の起源が次のように紹介されている。

「1938年(昭和13年)、フォルクスワーゲン(VW)を生産するために建てられた自動車産業の都市」

 当時の人口はわずか1144人だったという。現在は12万人に増えたが、住民のほとんどがVW社の社員と家族。「おらが街の」より「おらが会社の」チームというわけで、これではこの街の住民以外に声援を贈るファンなど存在しないのも当然だ。「街から数キロ離れただけでファンがいなくなる。VfLって『灰色のネズミ』さ。つまり、面白くもなんともない、まったく目立たないチームなんだよね」と陰口を叩かれる。

 チームは3部リーグ時代が長く、選手は建前上アマチュアの身分だったがプロ契約を結んで高額報酬を受け取り、現役引退後はVW社での雇用が約束されていた。そういう状況が90年代初期まで続いた。トップレベル到達への野望を抱いてはいたがほとんど上手くいかず、92年に2部リーグ昇格を果たしたのが初めての小さな成功だった。ブンデスリーガ昇格は97年。しかし順位は降格圏から辛うじて首の皮1枚を残すあたりをウロウロするだけ。そして2年連続15位と極端に低迷したのをきっかけに07年7月、マガート監督を招聘する。ここからチームの運命がガラリと変わっていった。

 マガートは監督、GM、スポーツディレクターの3つの役割すべてを一人で担当する特別人事をクラブに認めさせた。移籍、予算、人事、経営、管理など全権を握ったことでマガートは自分の思うようにチームを作っていった。

 しかも親会社のVW社は、マガートが望む金額を100%支払ってくれる。移籍金だけで2年間で6000万ユーロ(約78億円)が投資された。30人近くいる選手の年俸総額は6500万ユーロ(約84億円)、これはバイエルンの8000万ユーロ(約104億円)に次ぐ規模だ。6年前に完成したスタジアムの建設費用は5300万ユーロ(約69億円)。市が45%出資した形ではあるが、税収のほとんどがVW社関連なので、事実上“社有物件”だ。

人気はどうあれいつか必ず優勝するだろうチーム

 こうして次から次へとチームに大金が注がれた。だが「金に糸目をつけぬ」やり方と、企業の色に染まったチームにシンパシーが生まれるわけがない。製薬企業を親会社に持つレバークーゼンと立場は同じなのだ。VfLは人気がない分、すべて悪い方に解釈されやすい。例えばリーグ3位の順位にしても、「バイエルン、ブレーメン、シャルケ、ドルトムント、ハンブルクが不調と混乱に陥り、そこに発生した真空地帯に潜り込んできただけ」と捉えられている。

 ただ、状況がどうあれ、絶対に変わらない評価もある。それがマガート監督だ。過酷なトレーニングを課し、厳格な規律と命令への服従を強いるマガートのあだ名は「サダム・フセイン」。ドイツ語の「痛い」とファーストネームのフェリックスをもじって「クェリックス」と呼ばれることもある。マガートの信条とは「クオリティは痛みから生まれる」というものだ。彼は練習場に小高い丘を作らせ、選手にメディシンボールを2つ抱えながら往復運動させるなど、徹底的に体力面を強化するのである。この方法でバイエルンでもシュツットガルトでも成功した。

 ハードな練習をすればするほど成功に近づくという考え方は、彼を指導したブランコ・ゼベッチ、エルンスト・ハッペル両監督の流れを汲んでいる。ハッペルからはこうも教わった。「(監督というのは選手から)怖がられなければ、尊敬を得られない」

 ナポレオンのような絶対君主としてすべて自分一人で決定するスタイルを身につけたマガートには、トロイカ体制が出来上がっているバイエルンより、独裁体制を敷けるVfLのほうが気質に合っているということなのだ。ホッフェンハイムのラングニックや代表のレフほど研ぎ澄まされて先進的な戦術のアイデアを持つわけではないが、ある意味古典的なドイツ式サッカーで勝てる方法をマガートは現役時代より会得している。

 こういうことから、バイエルンのヘーネスGMは最も危険なライバルチームとしてVfLの名を挙げている。彼の目には「(VW社の莫大な援助を受ける)底力の凄さ」と「軍隊調の怖さ」が映っているのだ。

 記者仲間や識者に「VfLはマイスターになれるだろうか?」と尋ねると、ほとんどが「その可能性が高い」と答える。いつかは…、そうなのだ、いつかはリーグ優勝を果たすチームなのだろう。だが悲しいことに「誰も喜ばない」。それがVfLというチームなのだ。

 伝統がなく、ファンもいない。VWの資金援助なくして存在理由がハッキリしないクラブを誰が応援したいというものか。

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フェリックス・マガト
長谷部誠
ヴォルフスブルク

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