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すべてはチームのために〜シェーン・バティエの存在感 

text by

小尾慶一

小尾慶一Keiichi Obi

PROFILE

photograph byNBAE/gettyimages/AFLO

posted2006/10/19 00:00

 世界選手権が始まる、約2週間前のこと。中国の広州で、アメリカ代表と中国代表のエキシビジョンマッチが行われた。広州体育館に詰めかけたファンは、約1万人。報道関係者の数も、100名を超えた。

 試合はアメリカが危なげなく勝利したが、ゲーム後のミックスゾーン(取材エリア)は修羅場となった。報道陣の数に比べてミックスゾーンが狭い上に、一度にひとりかふたりしか選手が現れなかったからである。

 そんな状況で、アメリカ代表のフォワード、シェーン・バティエは、最後まで笑顔を絶やさなかった。ミックスゾーンに到着すると、殺気立った記者たちを前に、開口一番、「ニーハオ(こんにちは)!」と中国語であいさつをして、にっこりと微笑む。

 つたない英語の質問に、バティエはひとつひとつ丁寧に答える。中国ではアメリカ代表を「ドリーム7」と呼んでいたため、「ドリーム7についてどう思うか?」といった質問も出た。中国でしか通用しない呼び名なので、当然、バティエには理解できない。そんなときも、辛抱強く、最後まで記者の話に付き合うのだった。

 その紳士的な姿勢は、日本で行われた世界選手権でも変わらなかった。ミックスゾーンでの受け答えをすませた後、ウィンクをして立ち去るバティエの姿を、多くの記者が目撃している。

 周囲への気配りと献身、そして、自己犠牲の精神。それが、バティエという選手だ。

 成績だけを見れば、平凡なプレイヤーである。昨季、メンフィス・グリズリーズでの平均得点は、10.1点に過ぎない。だが、そんな彼が、アメリカ代表というスター軍団の中で、何度もスターターを務めた。また、このオフ、バティエをトレードで獲得したヒューストン・ロケッツは、その代償として、有望な若手PFとルーキーSFを放出している。

 「シェーンは、究極のチームプレイヤーだ。彼の熱意や勤勉な姿勢は、チーム全員にとってプラスになっている」アメリカ代表のヘッドコーチ、マイク・シャシェフスキーは、バティエをそう褒め称えた。「彼の重要性は、数字では決して測れない。だが、シェーンのプレーをよく見ていれば、彼の偉大さを感じとれるはずだよ」

 SGからPFの3つのポジションをこなし、攻撃時にはチームオフェンスの流れを第一に考え、守備では執拗なディフェンスでマークマンを苦しめる。スポーツ・イラストレイティッド誌は、そんなバティエを「オール・ダーティーワーク・チーム(地味な仕事をきっちりこなす選手を集めたオールスターチーム)」に選出した。

 バティエは、現在28歳。デューク大4年生時には、チームを全米優勝へと導き、カレッジ界のMVP賞を総なめに。学業においても優秀で、アカデミック・オールアメリカチーム(スポーツと勉学で優秀な成績を収めた者が選ばれる)に2度も選出されている。01年にドラフト6位でNBA入りして以来、常に、玄人筋から高い評価を受けてきた。

 数字的には平凡、と書いたが、ひとつだけ際立っている成績がある。それは、被オフェンスチャージ数。昨季は、NBA10位となる48回のオフェンスチャージをもぎとった。

 今季も、バティエはコートに倒れこむだろう。オフェンスチャージを誘うために、何度も、何度も。

 すべては、チームのために。シェーン・バティエの渋いプレーをご堪能あれ。

スターと脇役の良い関係

今季は、ロケッツがおもしろい。なんと言っても、オフにSFのバティエとSGのボンジ・ウェルズを獲得できたのは大きなプラスだ。昨季までのロケッツには、スター選手ふたり──トレーシー・マグレディとヤオ・ミン──を支える人材が不足していた。爆発力のあるウェルズは、オフェンスでの貢献を期待できる。そして、そのウェルズが自己中心的な選手であるだけに、バティエの脇役振りも際立つはず。バティエを影の軸として、チームがひとつにまとまれば、ウェストの上位に食い込む可能性は十分にある。

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