MLB Column from USABACK NUMBER

ターゲットは松坂の代理人。
MLBドラフト改革の顛末。 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2007/08/22 00:00

ターゲットは松坂の代理人。MLBドラフト改革の顛末。<Number Web> photograph by AFLO

 8月15日は、6月にドラフトされた選手の入団交渉期限日だった。昨年までだと交渉期限は翌年のドラフト前日までと、1年かけてじっくり交渉することができたのだが、今年から「交渉期間わずか2カ月」と制度が変わったのは、はっきり言って、松坂大輔の代理人として日本でも有名になったスーパーエージェント、スコット・ボラスの力を削ぐことが目的だった。

 ボラスといえば、A−ロッドの期間10年・総額2億5200万ドルの史上最高額契約の例を上げるまでもなく、FAとなったスーパースターに次々と巨額契約をもたらすことで知られているが、ドラフト指名選手の入団交渉に当たっても凄腕をふるうことで「悪名」を馳せている。「契約金の提示額が少ないから入団してあげない」と、上位指名された選手を翌年のドラフトまで待たせた例としては、松坂の女房役ジェイソン・バリテク、同じくレッドソックスのJ・D・ドルーが有名だが、近年、ドラフト指名選手の契約金が高騰するようになったのは、ボラスの存在が原因だったと断言してよいだろう。

 今年から新ルールの下で運営されることになったMLBのアマチュア・ドラフト、大きな改変点は、(1)交渉期間を2カ月と短くすることで選手側に早期契約締結のプレッシャーをかけるようになったことと、(2)1巡目・2巡目指名選手に逃げられたチームに翌年のドラフトでの同一順位指名権を保証、「ゴリ押し」をする選手に対してチームが「ノー」と言いやすくしたこと、の2点だった。

 いわば、ドラフト改革の目的は、ボラス流の「強面」交渉術に対して、MLB機構全体として対抗する態勢を整えることにあったのだが、その背景には、バド・セリグ・コミッショナーの強い意向があったとされている。セリグは、コミッショナー就任前はブルワーズのオーナー、「貧乏球団の代表」を自任している。これまでにも、収益金分配や「ぜいたく税」(年俸総額が一定額を超えたチームにペナルティを課す制度)を導入するなど、MLBに「共存共栄」の体制を築くことに専念してきた。しかし、たとえば、貧乏球団がヤンキースやレッドソックスと張り合ってスーパースターFAを獲得することはもとよりできない相談であるし、セリグにとって、「戦力の均衡」を実現する手段として、ドラフトを「完全ウェーバー制」として維持することの意義はとりわけ大きいものがあった。

 ところが、最近は、ボラスのせいで契約金が高騰、上位指名権を与えられているはずの貧乏球団が、「本心は指名したいのだが、ボラスが代理人だし、契約金が払えそうにない」という理由で、力がはるかに劣る選手を上位指名する例が続出、完全ウェーバー制の本来の意義が薄れる事態となってしまった。そこで、ボラスとボラス流の交渉術を真似る代理人達の力を削ぐために、今回のドラフト改革に踏み切ったのだが、今年は、さらに、コミッショナー事務局が作成する「指名順位別契約金標準額」を昨年より1割減額、金満球団が大盤振る舞いすることがないよう、にらみを効かせたのだった。

 はたして新制度の下、上位指名選手の入団交渉が交渉期限直前までもつれこむ例が続出したが、セリグの意向とは裏腹に、上位指名選手の契約金は昨年に比べてさらに高騰、結果はボラスと他の代理人達の圧勝に終わった。ボラス達が圧勝した最大の原因は、収益金分配や「ぜいたく税」のおかげで貧乏球団の財政が豊かになり、高額契約金を払う余裕ができたことにあった。契約金高騰に歯止めをかけんと、ボラスに対する闘いを挑んだセリグだったが、自らが推進してきた共存共栄策が実を結んだことが敗因となったのだから、「自分で自分の首を絞めた」と言ってよいだろう。

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