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老兵アラゴネスの会見拒否事件。 

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鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2007/09/18 00:00

老兵アラゴネスの会見拒否事件。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 ボロクソにいわれ、「ここから出て行けぇぇ」と試合後の記者会見でブチ切れて記者さんに怒鳴ったのはバルサ時代のファン・ハールだった。あれほど盛りあがった記者会見はなかなかない。監督も記者も、真剣勝負。食うか食われるか、である。

 たいがいの監督さんというのは記者の攻撃も軽く交わす術を身につけている。モウリーニョのように嫌みで返すのもテクニックのひとつで、オシムの話術もたいしたもんだ。誰にもグゥの音ひとつ言わせない。だから、ファン・ハールのように真っ向から熱弁する指揮官はとても新鮮だった。

 そこで、久々の熱闘記者会見。

 スペイン代表監督のルイス・アラゴネスの会見も見どころ満載だ。記者さんのアタックもすごいですけど、アラゴネスの凄まじい形相でのプッツンぶりも迫力がある。

 ところがどっこい、アラゴネスは先日のユーロ2008予選のラトビア戦後の記者会見を拒否。選手たちもほとんどが、ミックスゾーンを素通りしていくではありませんか。

 9月12日にオビエドで行われたラトビア戦は、13分に右サイドを崩したホアキンが2列目からフリーで走り込んで来たシャビに繋いで、あっさり先制ゴールを奪い、ゴールラッシュの予感が漂った。

 たが、追加点は長いこと待たされる。これが、オビエドのスペイン代表ファンを苛立たせた。4日前にアイスランドと引き分けたのも、気に入らないのだろう。FIFAランキングでいうところのスペイン8位、アイスランド117位、リトアニア110位だ。

 85分、約1年ぶりにフェルナンド・トーレスが2点目となるゴールを決めると、もう勝点3は手に入れたも当然。がしかし、スタジアムのスペイン人は選手に罵声を浴びせ続けた。ベンチでもろに浴びてしまったレイナなどは、反撃にでようとしたところルイス・アラゴネスに引き止められもした。

 後半のボール・ポゼッションは71%対29%というあり得ない数字を叩きだしているにもかかわらず、スペイン人はゴールラッシュを求めた。なぜか?

 「アロンソ、ナダル、バスケット、ハンドボール、水球、アルベルト・コンタドール、ペドロッサ、カルロス・サインツ、マシエルまで……、オレたちはいつ?アラゴネス、出て行けぇぇぇい」

 F1、全仏、ツールド・フランス、世界選手権、五輪、モトGP、ラリー、ユーロビジョン・ソング・コンテストにいたるまで、各世界でスペイン人はチャンピオンになっているのに、フットボールはいつなんだ、という叫びだった。

 1964年にスペイン代表は後にも先にも一度だけ、優勝カップを掲げたことがある。欧州選手権が地元スペインで開催されたときだ。その後は、ワールド・カップもユーロもベスト8の壁を越えられずにいることから、万年優勝候補止まりとされている。

 「スペインがベスト8を越えられないのは、メンタルが弱いから」と4、5年前にスペイン代表を分析したのはフェルナンド・イエロである。しかし、当時の代表と違い、いまではスパニッシュ・リバプールといわれるプレミア組がいる。イングランドでもまれているシャビ・アロンソやフェルナンド・トーレスからアーセナルのセスクが揃っていて精神的弱さを理由にするのはもう時代遅れだ。

 5年前のスペイン代表と比べても個々の質はあがってはいるし、経験もある選手が揃っている。しかし、「何か」が足りない気もする。

 「何か」と考えてぼんやりと浮かぶのは、ラウールやグアルディオラの持っていたキャプテンシーであり、イエロやナダルのような泥臭さとでもいえばいいのだろうか。

 もしかすると、その「何か」の役目を果たしているのが、ルイス・アラゴネスだったりする。まとめ役。汚れ役。嫌われ役。

 しかも、アラゴネスは本大会までマスコミ向けの記者会見は開かないという。スペイン国民から猛反対を受け、何度も辞任を口にしてはサッカー協会に丸め込まれているアラゴネス。これが最後の監督生活になる可能性が高いだけにさじを投げきらないのも、わからんでもない。クラブ重視のスペインでここまで代表論争が起きたことを、喜ばしいことと考えるべきか……。

 あのファン・ハールは叩かれ続けたあげく、優勝している。リーグ3連覇だ。

 ルイス・アラゴネス、69歳。

 歯に衣を着せない老兵は2008年夏で古稀を迎える。

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