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アジアカップ VS.カタール 

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木ノ原句望

木ノ原句望Kumi Kinohara

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2007/07/11 00:00

アジアカップ VS.カタール<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

 「なんでいっつもこうなんだよっ!」

 7月9日、カタールFWセバスチャン・キンタナのFKが壁の中にいた味方に当たり、GK川口が伸ばした腕の先を泳いで日本のゴールネットに突き刺さると、ハノイのミーディン競技場記者席で試合を追っていた某通信社の記者が、はき捨てるようにこう言った。ストップウォッチは88分を示していた。

 61分のFW高原のゴールで、3連覇を目指す日本のアジアカップ初戦勝利は、ほぼ手中に収めたように見えていた。

 それを残り2分のタイミングで1−1の引分けにしたのは、ペナルティエリア1メートル手前でのDF阿部のファウルと、そのファウルを誘い、FKからきっちり決めたウルグアイから帰化したキンタナの技量だった。

 「これが国際試合の怖さ」と川口は言い、国際試合経験の少ない選手が多い現在のチームにはその認識が欠けていると指摘。そして、「あの位置でFKを与えたことがまずい」と続けた。

 残り時間を考えれば、単純に蹴りだしておけばいいボールだっただろう。それをつなごうとして、相手にボールが渡った。ゴール目掛けてドリブルで突き進むキンタナを、体を寄せて得点機を阻止した阿部はイエローカードを受けた。

 オシム監督は、「美しく効率的なサッカー」を求めるサッカーとしてたびたび口にし、この日も「よくやっていたが、日本の持つポテンシャルと美しく効率的なサッカーを披露するまでにはいかなかった」とコメントしていた。特に、この痛恨のファウルに象徴されるような、状況を省みずに常に繋ぐというプレーは美しさからも効率からも遠いものだ。

 守備的に徹するカタールは、時々思い出したようにカウンターを仕掛けるぐらいで、得点する気があるのかと疑いたくなるほど、ほとんど前に出て来ない。

 それでも高温多湿の気候の中、辛抱強くボールをキープしてチャンスを探り続けた日本は、ハーフタイム過ぎから、ケガで出場を見送ったDF駒野の代わりに左サイドバックに入った今野や左ウィングの山岸らが仕掛けて、チャンスを作り始めていた。

 そして、その今野がMF中村憲剛のスルーパスを右のアウトでファーサイドの高原へ折り返し、フランクフルトで得点を重ねてきた元ジュビロ磐田FWが冷静にネットを揺らす。ようやく掴んだリードだった。

 ところが、その優位性を最後までキープできない。

 「リードして、これから自分たちのサッカーをやらなきゃいけないところで、守りに入ってしまった」と高原は言う。DF加地も、「勝てるという余裕から出たミスがあったのかも」と振り返る。

 リードを活かせない。チャンスに決めきれない。いずれもこれまで何度も目にしてきた日本代表チームの“症状”だ。

 「勝ち点6を取れていた試合だった」と言うオシム監督の台詞からは、カタールをB組1位通過を狙う最大のライバルと捉えていたことが伺えるが、「いいところまで仕事をしていながら、いちばん大事な仕上げができなかった。こういうところでチャンスを決められないのは、直さないといけない」と指揮官は嘆いた。

 その嘆きの深さは、試合直後のロッカールームでの選手とのやり取りに現れていた。元ユーゴスラビア代表監督は、「俺は死ぬ気でやっている。お前たちも同じ気持ちでやれ」と顔を真っ赤にしてまくし立てたという。

 中村俊輔は「あと少しのプラスアルファがあれば」と話すが、その「あと少し」がこれまで数多くの試合で勝者と敗者を決め、カタール戦では日本の勝ち点を1に減らした。

 8日のB組開幕戦では、地元のベトナムがガルフカップ王者のUAEを2−0で下す波乱があり、日本はこの日の結果でカタールとともにベトナムを追う形になった。

 各組2位までが準々決勝進出できるが、1位通過と2位通過では決勝まで移動なしで戦えるか、バンコク、クアラルンプールと行脚をしながらの戦いになるか、プレー環境は大きく異なってくる。それどころか、次のUAE(アラブ首長国)戦で勝利を挙げられなければ、グループリーグ敗退の可能性もある。

 カタール戦の引分けが選手の危機感を高め、UAE戦のみならず、大会の勝利を手繰り寄せることになるのか。7月13日の試合でわかる。

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