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F1史上初のナイトレース。 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2008/10/06 00:00

F1史上初のナイトレース。<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 「眠いです!」

 木曜日“夜”7時10分、日本メディアの“囲み取材”に現れた中嶋一貴の第一声がこれだった。早朝5、6時まで起きていてそれから就寝。昼12時には起床しなければならず、ただでさえ寝起きの悪い中嶋一貴にとってはひどい睡眠不足なのだ。これがF1史上初のナイトレースに参加するドライバーの“弊害 ”(?)のひとつだった。

 レース・スタートは夜8時。これはヨーロッパの午後1時にあたる。数字上の話だけなら、ヨーロッパから来たドライバーたちは普段の生活時間そのままをシンガポールに持ち込めばいいのだが、そううまくは行かないところがF1ドライバー稼業のつらいところ。彼らには“スポンサー対応”業務があり、だいたいランチタイムからそれが始まる。いきおい睡眠不足になろうかというものである。しかし、これは慣れるしかない。

 今季第15戦シンガポールGPはF1史上初のナイトレースとして大きな話題を呼んだ。

 照明の光度は十分なのか。雨が降った時の対処は? 関係者の時差はどうする……など、問題山積と思えたが、金曜日の夜7時にプラクティスが始まるや、そうした心配は完全にクリアされてしまった。勝ったアロンソによれば「昼間コースを歩いてみて問題ないと思ったが、いざ300km/hのスピードで走り始めると薄暗いと感じるところが出て来た」というが、それによって照明が改善されたという箇所もなく、要は慣れによって照明の問題は解決してしまったのだ。

 夜間走行の問題なしとなれば、注目されるのはマリナベイ・ストリート・サーキットそのもの。アロンソは「ターン7付近のバンプがひどいね」と言い、多くのドライバーも口を揃えてそう言った。同地点はサーキットで唯一のオーバーテイク・ポイントとなるだけに、マシンのセッティングにも大きな影響を与えたが、マシンがアンダーフロアを路面に擦り付けることからスパークが発生。夜のコースゆえ、それはひときわ美しく見えたものだった。

 夜8時からのレースは気温30度のコンディション下で行なわれ、陽が射さないことが観客にとってもっての幸い。このあたりがナイトレースのメリットで、まるで夜祭のような雰囲気がサーキットに漂ったが、ドライバーが困惑したのは60%以上に達する湿度だ。シーズン中、最も過酷なコクピット環境はマレーシアGPと言われていたが、体感不快指数はそれ以上だったようで、レースの後の中嶋一貴は開口一番「暑いっ!」。用意されていたスポーツドリンクを一気飲みしていた。

 レースはエスケープエリアの少ないストリート・サーキットの常として、マシンのクラッシュによるセーフティカー出動が予想されたが、アロンソの勝利はセーフティカー出動以前に1回目ピットストップを終えていたことが大きな理由だった。アロンソは予選でマシン・トラブルに見舞われ15位スタートだったが、思い切ったショート・スティント作戦が功を奏した。まさにストリート・サーキットならではの奇蹟。来年以降もシンガポールGPはナイトレースとしてだけではなく、意外性の高いレースとして大きな注目を集めるだろう。F1史上初のイベントは大成功の裡に幕を閉じた。

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