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「捕手なのに打てる!」のではない。
“バットマン”阿部慎之助を巡る物語。 

text by

鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2009/11/18 10:30

「捕手なのに打てる!」のではない。“バットマン”阿部慎之助を巡る物語。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

日本シリーズ第6戦、優勝が決まった瞬間にマウンドに駆け出すキャプテンの阿部。重責から解放され、最高の笑顔がはじけた

 捕手でありながら、あれだけの打力があるから価値があるのではない。この男はバットだけでも十二分な価値にあふれている。その上に捕手をやっているから、もっと魅力的なのだ。

 巨人が7年ぶりの日本一を奪回した。日本ハムを4勝2敗で退けた日本シリーズ。そのMVPに輝いたのが巨人の阿部慎之助捕手だった。第5戦では亀井義行外野手の同点弾に続いてサヨナラ本塁打、日本一を決めた第6戦でも2回2死三塁から中越えに先制タイムリー二塁打と勝負を決める貴重な一打はすべて阿部のバットが叩き出した。

 そんな表にみえる活躍だけでも、MVPは誰もがノー文句の受賞だった。

打者心理の裏をかく配球で、稲葉、高橋を連続三振に。

 だが、この男の場合はそれだけでは終わらない。チームの主将として選手をまとめ、試合になればマスクを被って投手陣を引っ張った。

 愁眉は1点を争う好ゲームとなった第6戦のリードだった。

 1点を先制して迎えた5回。先発・東野峻投手のアクシデントで、1回途中から急きょマウンドに上がった内海哲也投手が1死二塁のピンチを迎えた。この場面で阿部は日本ハムの稲葉篤紀外野手、高橋信二一塁手を相手に、カウント2-2からいずれも内角の厳しいコースにストレートを要求。この一球によって打者の次の一球への心理を外の変化球へ持っていった。しかし、勝負球に選んだのは外角のストレート。予想もしない配球に相手の3、4番コンビのバットはピクリとも動かず見送りの三振に切ってとった。

「初めて褒められましたよ」

 翌日の新聞紙上では評論家がこぞってこのリードを取り上げ、あの野村克也前楽天監督も大絶賛していた。そんな話を向けると照れ笑いを浮かべて、こんな答えが返ってきた。

 昨年はリーグ優勝を決めたヤクルト戦で右肩を脱臼して、日本シリーズに捕手としては出場できなかった。

「とにかく辛かったです。でも思う存分、力を発揮できた。やっと念願がかないました」

 日本一のお立ち台ではこう言って目を真っ赤に充血させた。

【次ページ】 原監督も「4番を打てる実力」と打撃に太鼓判を押す。

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原辰徳
阿部慎之助
読売ジャイアンツ

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