レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

ロナウドに対するサポーターの失望。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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posted2005/05/24 00:00

ロナウドに対するサポーターの失望。<Number Web> photograph by AFLO

 「まるで親善試合のようだった」(ルシェンブルゴ監督)。「すごく退屈な試合で集中するのに苦労した」(ベッカム)。

 仕事とはいえ見なきゃよかった、と後悔した。5月21日に行なわれた対アトレティコ・デ・マドリー戦のことだ。録画などでこれから観戦する人には、見ないことを強くお勧めする。あくび連発は確実だから。やっている本人たちが言っているんだから間違いない。

 まだ1試合残しているが、レアル・マドリーにとってリーグはバルセロナ優勝で終わった。後は「試合するためのモチベーションを探さなくてはならない」と、ルシェンブルゴが嘆くような消化試合が続くだけ。宿命のライバルをベルナベウに迎えたダービーマッチですらあの体たらくだから、来週のサラゴサ戦にモチベーションが見つかる訳がない。

 この試合、1人だけ特別にやる気満々の男がいた……はずだった。

 それまでの6試合で8ゴールを量産、バルセロナのエトーに4ゴール差と迫り「得点王は取れる」と公言する自信の塊。優勝の歓喜のあまり「マドリッド、クソッたれ!」を連呼したエトーを、「タイトル獲得に慣れてないから」と一蹴した銀河の戦士――。このロナウドのゴールこそ注目の的だった。

 だが、チームメイトの無気力さに輪をかけて彼の動きは鈍かった。

 もともとプロセスには参加せずフィニッシュだけに顔を出すタイプで、ゴール前での爆発がなければ、消極的で受身な印象を与える。ここが、ゴール数で圧倒的な数字を残しているにもかかわらず、ファンに今一つ愛されない理由だ。

 世界一流のテクニシャンを集めたゴージャスなチームを支えるファンは、華やかなスターではなく、意外にも地味な働き者タイプ、懸命にボールを追う献身的な選手を高く評価する。ここ数年の不調で求心力は落ちたが、ラウールはそうしてマドリーのシンボルまで上り詰め、ベッカムやグラベセンは最も拍手を浴びる選手となった。

 よく言われることだが、スペインではファンは選手ではなくチームにつく。彼らにとって最も大切なのは“金を求めて移籍する傭兵”と軽蔑されることも多い選手ではなく、チームなのだ。そのチーム愛を証明するのに、一瞬に過ぎない華麗なドリブルや強烈なシュートだけでは不十分。クラブのプレステージを守り、勝利に執着して90分間全力疾走する姿こそ、チーム愛の証明と考えられている。

 この“フォー・ザ・チーム”とは対極の位置にいる、と評価されがちなのが、ロナウドだ。

 グラベセンが体を張ってボールを奪い返し、ポジションを下げたラウールがサイドに展開、疲れを知らないベッカムが上げたセンタリングを、押し込む“だけ”の彼(実際は、この“だけ”がとてつもなく高度で、超一流の証明なのだが)。

 守備組織の弱さでインターセプトに苦労し、得意のボール支配にも陰りが見られる今のチームで、ゴールチャンスを築くのは容易ではない。「レアル・マドリーはカウンターのチームになった」は定評になろうとしている。そんな中、地味なプロセスで汗を流さず、最後にサッカーの華であるゴールをさらっていく彼には、どうしても“おいしい所取り”の悪印象が拭えない。

 そもそもゴールゲッターには、そうしたイメージがつきまとうものだが、守りへの貢献が極端に低い(動かずエネルギーを溜めるべし、は監督公認のようだが)ロナウドは、ファンの目にはフォー・ザ・チームではなく、チームが彼に尽くす“フォー・ザ・ロナウド”のように映る。選手よりもチームが上、という序列が、ロナウドの場合、逆転しているかに見えるのだ。

 彼はこの評価をアトレティコ戦で変えることはできなかった。

 パスをもらい、ドリブルを仕掛け、ボールを失うと立ち止まってしまい、追わない。貪欲さや執着が伝わってこないのだ。

 エトーがレアル・マドリーを侮辱する発言をしたことで、彼から得点王を取り上げることは、単なる個人的名誉以上の意味を持っていた。エトーはその後謝罪し、クラブは正式にこれを受け入れたが、ファン心理は、最大のライバルにタイトルを奪われた上に罵倒までされる屈辱を晴らす唯一の方法として、その担い手ロナウドに期待していた。

 過大な期待ではある。だが、それがスーパースターの宿命というものだ。

 このファンとの和解のチャンスをロナウドは逃してしまった。

 その不甲斐なさは、15分を残しながら交代させたルシェンブルゴ采配が象徴している。得点王取りの挫折を宣告したのは、皮肉なことに自らの監督だった。「私はレアル・マドリーの監督だ。そんなこと(得点王タイトル争い)には興味が無い。チームに良かれと思うことをやるだけだ」と言い切った彼には、温情など存在しないようだ。

 噂どおりの鬼将軍ぶりだ。この厳しさがレアル・マドリーを2005年の最多勝チームにし、2度にわたる7連勝の猛追を実現させたのだろう。

 ブーイングを浴びるロナウドに代わって入ったのはフィーゴだった。

 これが彼のベルナベウでの最後の試合だったと噂されている。フィーゴは、オーウェン第2フォワード、ベッカム右サイドというルシェンブルゴ新布陣で弾き出されてしまったが、チームがその間連勝を続けては、誰も彼の控えを疑わなくなっていた。この日も精彩を欠き、有終の美を飾ることはできなかった。

 思えば、電撃移籍によりバルセロナを弱体化させるとともに、フロレンティーノ会長が夢見た“銀河系軍団”を作り上げるための最初に獲得した駒がフィーゴだった。そのバルセロナが優勝に返り咲いたシーズンにレアル・マドリーを去ることになれば、それはやはり因縁と言うべきだろう。

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