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サッカーを見る力。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

PROFILE

photograph byTomoki Momozono

posted2009/04/01 22:27

サッカーを見る力。<Number Web> photograph by Tomoki Momozono

「サンフレッチェ広島でプレーしているときに、西日本地区で大規模な調査があってさ。8桁の数字が一瞬画面に現れて、それを記憶して答えるというものなんだけど、オレが西日本で一番だったんだよな」

 まず広島のある若手がこの検査に臨んだところ、4桁しか答えることができなかった。それを後から見ていた風間氏は「真面目にやれ!」とどやしつけたという。そして自分の番が来ると、風間氏はいとも簡単に8桁の数字をそらんじたのだった。医師は「こんな人は初めて」と驚きを隠せなかった。

 実はこの映像記憶能力、サッカーにおいて極めて重要な意味を持っている。もしこの能力が高ければ、まわりの状況を画像として記憶することができる。つまり極端に言うと、一時停止の映像を見ながら、パスコースを選ぶことができるのだ。

「味方と相手がどこにいるか、頭の中に写真のように残る。プレーが続いても、誰がどう動くかを予想できれば、見ないでパスを出せる。自分の目はヘンでさ。試合中、遠くのモノが近くに見えることがしばしばあった。30メートル先にいる選手が、すぐそこにいるような感じでね。そういうときは、簡単にサイドチェンジのパスが出せた」

 今まで筆者は試合を観るとき、全体の動きを理解しようと、俯瞰した視線を意識することが多かった。その方が戦術や組織をチェックするには適しているからだ。だが、この話を聞いて以来、選手が何を見ているかにも興味を持つようになった。選手の目になったつもりで、試合を見るのである。

 実際、Jリーグの試合でやってみると、すごくおもしろい。なぜあの選手はあのパスコースを選択したのか。他が見えてなかったのか、リスクを避けたのか――選手の目の能力を推測する楽しみができる。

 自分に『見る力』があるかどうかはわからない。だが、その力がある人に会い、イメージを言語化し、伝えることはできるはずだ。

 今年はJリーグを通して、見えないモノに気がつき、カタチにすることに挑戦したいと思っている。

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