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ダルビッシュ有、究極の機能美。
~ノーヒットノーランはいらない~ 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byNaoya Sanuki

posted2009/07/01 12:30

ダルビッシュ有、究極の機能美。~ノーヒットノーランはいらない~<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 その言葉に、彼のピッチング哲学が集約されていた。

「ノーヒットノーランをやったからといって、2勝、3勝になるわけじゃないので」

 6月26日の千葉ロッテ戦。8回、先頭打者のサブローにヒットを許すまでノーヒット投球を続けていた日本ハムのダルビッシュの試合後のコメントである。

 投手という生き物は、勝つという目的のために、極限まで無駄なもの省き、削る。その過程はレース用の車のボディをつくる作業と似ている。そういう意味では、ダルビッシュは近年稀に見る究極の形だ。

ゲームを完全に支配し、絶対に“勝つ”投手。

 投げた、勝った――。

 勝つことがこれほど当たり前に映る投手は、いつ以来だろうか。

 昨年、21勝を挙げた楽天の岩隈久志は、安定感は抜群だったが完投タイプではないためゲームを支配し切ったという印象に欠ける。西武時代の松坂大輔にもこれほどの安定感はなかった。やはり1989年、90年と、連続20勝を挙げた全盛期の斎藤雅樹(元巨人)以来ではないだろうか。

 あの頃の斎藤も、まさに「投げた、勝った」だった。

 ただその斎藤もノーヒットノーランは経験がない。

 斎藤だけではない。意外と、やっていそうでやっていない投手は多いのだ。

 前述の岩隈、松坂もそう。上原浩治(オリオールズ)も、斉藤和巳(ソフトバンク)も、古くは、江川卓(元巨人)も、北別府学(元広島)も、東尾修(元西武)も、山田久志(元阪急)も、村山実(元阪神)も、稲尾和久(元西鉄)も。そして、こういう言い方は失礼だが、意外な投手がノーヒットノーランを達成していたりする。その最たる例が1985年の日本ハムの田中幸雄だろう。実働8年、通算25勝の投手だった。

名投手、必ずしもノーヒットノーランを求めず。

 つまり、「主な記録」の欄にノーヒットノーランがあるかないかは、必ずしも、投手の優秀さを測る物差しにはならないということだ。1試合を無失点に抑えることならまだわかる。しかし、1試合を無安打に抑えることと、チームを勝利に導くことは、同一線上にはない。むしろ逆行することさえあるかもしれない。

 投球とは、9回をいかに最少失点で乗り切るかという、いわばトータルコーディネートだ。そのためには、一発のない打者に抜いたボールを投げて軽打を食らうこともある。だが、そこで力を温存しておいたことが、必ずどこかで生きる。点に結びつかない被安打は、トータルで考えれば、決してマイナス要素ではないのだ。

<次ページに続く>

► 【次ページ】 「俺のときは手を抜いてる」と打者に言わせる凄さ。

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