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エスパニョール、10年に一度の好機。 

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鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2004/12/03 00:00

エスパニョール、10年に一度の好機。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 その昔、大昔にはカタルーニャではFCバルセロナよりもエスパニョールの方が実力も人気もあったという。エスパニョールといえば、サリア・スタジアムを思い出す。’82年のスペイン・ワールドカップで使用されたスタジアムで、ブラジル対イタリアの試合はワールドカップの名勝負のひとつとして語り継がれている。バルセロナ・オリンピックが開催されたモンジュイック・スタジアムにホームが移転してから客の足が途絶えた感があったけれども、最近の活躍で再び、スタジアムは熱くなってきた。

 スペイン人も首をかしげる疑問が、なぜ、サリアを手放したのにまた新しいスタジアムを建設しているのか、ということだ。サリアを維持できず、スタジアムがマンションになることが決定したとき、エスパニョールのファンは猛烈に反対した。だが、その声は届かず、爆薬で次々と崩れ去っていくスタジアムを何千人ものファンが泣きながら見送ったのは、’97年のことだった。

 同じバルセロナのクラブであっても、バルサと異なるのが、レアル・マドリーに向ける感情の違いだ。レアル戦ではバルセロナとのダービーよりも客が入る。しかも、レアル・ファンがこれほどまでにいたのかと、驚かされるほど。カタルーニャ人でもレアル好きはいる。フランコ派がいたりする。スペインには王室から「レアル」の称号を受けたクラブは少なくない。マドリー、ラシン、マジョルカ、ソシエダ、ベティス、セルタなどがレアルの名を冠する。エスパニョールにもレアルがつく。カタルーニャの旗をなびかせながらもレアルというスペインをも重んじている。だから、サンティアゴ・ベルナベウのゴール裏でエスパニョールのユニホームを着たファンがいても、何もいわれないのだろう。これが、バルセロナだったら、大変なことである。そういえば、バスクにも同じような関係がある。ビルバオにはなくソシエダには「レアル」があったりする。

 エスパニョールにはレアル・マドリーから選手がよくレンタルされる。犬猿の仲のマドリッドとカタルーニャにはなかなかない、レアル繋がり。今シーズンもミニャンブレスがレアルからレンタル移籍されたが、ちょっとした問題も起こった。エスパニョールで出場機会の少ないミニャンブレスは「これなら、マドリッドに残っていたほうが良かったよ」と吠えてしまったのだ。レアル育ちのプライドが許さなかったのか。この事態は彼が謝罪したことで、丸くおさまったけれども。得点王を走るバルサのエトーもいっとき、エアスパニョールでプレーしていた。ほとんどトップ・チームでは出場せずにマジョルカへ放出されたが、あのときの彼はまだ運動能力の優れているアフリカ人に過ぎなかった。最近は、バルサ育ちの選手もたくさん流れてきている。オスカル・セラーノらユース出身の選手も育っている。ダニのようにリストラされて生まれ変わった選手もいる。決して、華やかではないけれども、見どころはたくさんある。

 ここ2、3シーズンのエスパニョールは2部降格の危機を迎えたりもして、選手、監督の顔ぶれは次々と変わってきた。選手の顔と名前が一致するようになったのは、ロティーナ監督が就任してから。タムードという絶対的なシンボルにアトランタ五輪で将来を嘱望されたデ・ラ・ペーニャ、イトからリケルメ、ワールドユース優勝に導いたマキシといったテクニシャンが揃う。一番の注目株はGKのカメイだ。シドニー五輪決勝でスペインを下したカメルーンの一員だったカメイはスペイン・リーグでナンバー1の防御率を誇る。カシージャスのビデオを見て勉強してきたというカメルーン人はお手本としてきたレアルのGKより上を行く。低迷していたエスパニョールの課題として、GK獲得があげられていたが、こうもあっさり救世主が登場するとは思ってもみなかった。ハイ・ボールやクロス、1対1での飛び出しではその身体能力の高さを披露してくれるが、やはり若すぎる気もする。カシージャスやバルデスのように20歳そこそこの青年が名門クラブのGKになる時代だけれども、言葉の問題も彼にはある。しかし、やっぱりカメイの将来は明るく感じられる。アトレティコ戦では自らゴールを決めてしまった。エスパニョールがバルサ、レアルに次ぎ3位のポジションにいるのも、頷ける。

 アラベスをUEFAファイナルまで導いたロティーナ監督とエスパニョールの相性もいい。希望は膨らむばかりだ。’95−’96シーズンにカマーチョ率いるエスパニョールは4位で、翌シーズンUEFAカップに出場した。’87−’88シーズンにはUEFAカップで決勝まで進んだ実績もある(優勝カップを目前としたエスパニョールだが、レヴァークーゼンにペナルティで敗れた)。エスパニョールには10年に一度のチャンスが、再び訪れようとしている。バスクぐらいまでなら、8時間かかろうとも選手は当たり前のようにバスで移動する。欧州で、チャンピオンズ・リーグで戦うことを夢に今週末もバスに揺られる。

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