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カーンの復活に見るゲルマン魂の継承。 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byGetteimages/AFLO

posted2005/04/08 00:00

カーンの復活に見るゲルマン魂の継承。<Number Web> photograph by Getteimages/AFLO

 土壇場に強く、鋼のような精神力を称えられたドイツサッカーも、最近ではすっかり“あの人は今…”になってしまった。バイエルンを除いた全チームの軟弱さは、なんとも心もとない。チャンピオンズリーグでリヨンに歴史的大敗を喫したブレーメンは昨季のリーグ王者だろ?格落ちのUEFAカップで全滅だなんて、誰もスペインの凋落を笑えないぞ。いったいゲルマン魂はどこへいったのかいな。

 と、ぼやいていたら、いましたよ、いましたよ。その“権化”が。

 GKカーンだ。「え、マジで?」と驚くなかれ。一時の不調など、どこ吹く風。最近のカーンサマは精神的にも肉体的にも絶好調なのだ。身重の妻がいての不倫騒動にケリをつけたカーンだが、バイエルンにはこの面でのアドバイザーがいくらでもいた。ベッケンバウアー会長、ルンメニゲ社長、ヘーネスGMはいずれも不倫経験者。前監督のヒッツフェルトもそうだった。体験に基づいた貴重な助言があったかどうかは知らぬが、ともかく心の整理ができたのは大きい。

 6月で36歳になる年齢も、本人は「限界はない。年齢は頭の中にある数字だけだ。オレは02年W杯のピーク時に再び達するだけじゃなく、それを超えることを自分に要求している」と勇ましい。実際、アーセナル戦や代表戦でのパフォーマンスは完全に上昇基調にあることを証明している。

 昨年の不振を逆にプラスのエネルギーへと転化できたのも大きい。当時はそれ以上の上昇が考えられず、「いつかは平凡なプレーしかできなくなるかも…」という恐れに支配されていた。だが失敗から学ぶことを悟ったカーンは、経験と実績を土台に「06年W杯優勝」のモチベーションが加わり、気持ちを入れ替えた。

 元々、非常に几帳面な性格である。隣家の庭の芝生の駆り方で、芝の目が揃っていないだけで我慢がならない。つまり徹底的に論理や理屈にこだわる。だからその面で納得がいけば、彼はどこまでもやる気を出すタイプなのだ。

 やる気を起こさせた彼の上司は2人いる。代表のクリンスマンとバイエルンのマガート。2人の名監督は現役時代、「ネバー・ギブアップ」の代名詞だった。W杯とチャンピオンズリーグ優勝経験を持ち、根っからの「勤勉で正直者」である2人は、カーン復活の助け舟の役割を果たしたわけだ。ドイツの伝統はこんなところで受け継がれているのだ。

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