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降格するにもそれなりの理由が。 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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posted2007/03/29 00:00

降格するにもそれなりの理由が。<Number Web>

 3年前に新築されたボルシアMGの専用スタジアム「ボルシアパーク」のVIPラウンジには、往年の名選手ギュンター・ネッツァーの大型白黒写真が掲示されている。このうちの1枚はトレーニングウェアを着こんで物思いに耽る寂しそうな表情を捉えたもの。ネッツァーの視線はうつろである。

 ネッツァーが在籍した頃のボルシアMGは国内無敵だった。欧州ではUEFAカップも制した。しかし近年は(といっても'80年以降からだが)ずっと不調が続き、世紀の変わり目に2部降格を味わった。3年後、1部に返り咲くも順位は10〜15位が定位置となる。リーグの「付録品」に成り下がったチームは夢も希望もない週末を過ごすだけ。これが現在のボルシアMGである。

 今季は元代表でOBのハインケスが指揮を取ったが、わずか215日で解任され、26節時点の順位は最下位の18位。パフォーマンスと今後の対戦相手を考えたら、8年ぶりの2部降格は間違いないだろう。

 ハインケスを雇う決断を下したのは会長のケーニヒス氏だ。22カ国に79もの工場を構え、従業員1万1000人を数える大手繊維会社の社長。企業経営者としては優秀だが、公の場での発言を嫌い、都合の悪い発表や記者会見になるとGMに代役をやらせる悪い癖がある。こういう人はたいがいワンマンである。実際、クラブを揺るがすスキャンダル問題でGMが矢面に立たされ苦しんでいる最中も、GM任せで本人は表に出てこなかった。我慢できなくなったGMが「なぜ会長は私の後ろ盾になってくれないのですか」と文句を言ったところ、2日後に「君とは別れよう」と告げた。次のGMも会長のやり方に納得できず辞任。後任には35歳のツィーゲが就いたが、これといった強化策を打ち出せず低迷を打破できない。30歳も年の離れた会長を納得させるのは至難の業だ。

 ネッツァーとハインケスは同世代で共にリーグ優勝を味わい、欧州最高のゲームメーカー、国内屈指のストライカーだった。10年前、32年ぶりにチャンピオンズリーグで優勝したレアル・マドリードを指揮していたのはハインケスである。この2人、考え方と生き方で180度違う。過去の失敗を教訓に冷静沈着に次の一手を考えるのがネッツァーなら、ハインケスは旧態依然のトレーニングに固執し戦術面で新たなアイデアも出せない、年季だけが自慢の鬼軍曹である。選手とは主従の関係を基本にしている。

 一度はクビになったハインケスだが、会長は今でも「彼を雇ったのは間違いではない。彼は優秀な指導者、言葉の1つ1つに重みがある」と大絶賛する。そしてあろうことか、会長は間もなくハインケスをクラブに復帰させる考えだというのだ。監督としてではなく役員だが、そうなれば副会長か理事待遇である。これでケーニヒスとハインケスのクラブ支配体制が確立する。しかし来季、チームは2部だ。この人事、この体制で乗り切れるというのだろうか。

 そう思うと、ネッツァーのあの寂しげな目つきの理由を自分ながら勝手に解釈できる。彼は鋭い審美眼で30年後のチームの没落を心配していたのだ。まさか……。いや、賢人(ちなみにこれは僕が作ったコピーです。なので専売特許!)であれば、それだけの目利きもできるに違いない。なにしろ、70年代からクラブの体質をたびたび批判してきたのだから。

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