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マンチェスターUの意味不明な戦術。
完敗と言うより「自滅」。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byKazuhito Yamada/KAZ Photography

posted2009/05/28 13:00

マンチェスターUの意味不明な戦術。完敗と言うより「自滅」。<Number Web> photograph by Kazuhito Yamada/KAZ Photography

 イングランドでは「ルーザーズ(敗者の)・メダル」と呼ばれる準優勝メダル。これほど、この日のマンチェスターUに相応しいメダルはない。マンUは、支離滅裂なパフォーマンスで、バルセロナに完敗したのだから(0-2)。

 マンUのファーガソン監督は、試合後に「勝つべきチームが勝った」と勝者を讃えた。その潔さはあっぱれだ。だが実際には、「負けるべきチームが負けた」と言うべきだっただろう。それほどマンUは酷かった。信じ難く、衝撃的なほどに。敗因を挙げるならば、「自滅」とさえ言ってもよい。

慣れないシステム4-3-3を選んだのはなぜなのか?

 そもそも、4-3-3システムでチームを送り出した指揮官の意図は、どこにあったのか? 立ち上がりこそ、9分間でC・ロナウドが3本のシュートを放つなど優位に立ったが、3トップでの攻撃に主眼が置かれていなかったことは、両サイドのルーニーとパク・チソンの守りっぷりを見れば明らかだ。攻撃志向のバルサの3トップのように、相手DF陣をかく乱するための頻繁なインターチェンジが見られたわけでもない。

 かと言って、敵と同じ陣形でマッチアップを実現し、堅守速攻を意識していたとも思えない。10分の失点は、正面にいたイニエスタにパスするかのようなキャリックのヘディングに端を発している。ドリブルに入ったイニエスタの前で、ボランチであるはずのアンデルソンは、まるで透明人間のように無力だった。70分、ピッチ上の選手で最も背の低いメッシに頭で決められた追加点は、中途半端なクリアが原因だ。2失点の合間にシャビのFKがポストを叩いた場面では、CBのビディッチが、あろうことかボールを避けている。集中力、威圧感、気迫の何れも欠けていたマンUの守りは、カウンターに勝負を懸けるチームのそれではなかった。

 さらに理解に苦しむのは、リードを奪われた後の前半35分間の戦いぶりだ。マンUイレブンは、失点で目を覚ますどころか、意識不明の状態に陥ってしまったようだった。最終ラインがより深くなる一方で、3センターの一角であるはずのギグスは、前へ前へとポジションを変えていく。結果として中盤では、自軍にとっての数的不利と、相手にとっては願ったり叶ったりの時間とスペースが生まれた。バルセロナのポゼッション率が高まったことは言うまでもない。

名将ファーガソンの意味不明な采配は、悪夢以外の何物でもない。

写真敗戦直後。ベテランのはずのギグス、スコールズも決勝での動きは硬かった

 ハーフタイム中に、テベス投入に伴う4-2-3-1への移行を決めたファーガソンは、その理由を「守備の局面で中盤に頭数が欲しかった」と述べている。ならば、なぜ前半の段階で、キャプテンの腕章を巻いていたギグスに対し、「持ち場に戻れ!」とベンチ前から指示を飛ばさなかったのか? しかもこのシステム変更は、66分のベルバトフ投入で台無しになっている。マンUは、1点差を追いつくためにまだ30分近く時間が残されていたにもかかわらず、既に4-2-4という捨ての態勢になっていたのである。

 30年以上のキャリアを誇る大ベテラン監督に率いられ、守備力はもちろん、総合力でもバルセロナを上回っていたはずのマンU。それが、意味不明の戦術に則ったまま、守備の甘さから失点を喫し、かつての控え選手(ピケ)を中核とする敵の守りにあっさり抑えられてしまった。こんな展開を一体誰が予想し得ただろうか。国内外3冠の「夢」が叶ったとはいえ、勝者となったバルセロナが、『ドリーム・ファイナル』と期待されたCL決勝に相応しい、出色の出来を見せたとは思えない。敗れたマンUの出来は、「悪夢」以外の何物でもなかったのだが……。

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