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4年前にも見た光景。 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byKiminori Sawada

posted2007/02/27 00:00

4年前にも見た光景。<Number Web> photograph by Kiminori Sawada

 0−0。ファーストレグのこの結果をどう見るか。敵地での戦いを無難に切り抜けたミラン優位。大人の戦いをミランはした。一般的な解釈はおそらくこうだろう。だが、僕はそうだろうかと、疑問を投げかけたくなるクチだ。それはそれとして認めるが、それが支配的になるのは、好ましくないと考えるからでもある。

 ミランがセルティックと対等な立場にあるなら話は別だ。0−0はミランにとって喜ばしい結果だろう。だが、ミランは強者で、セルティックは弱者だ。セルティックがミランを倒せば番狂わせ。こうした状況の中で、この一戦は行われている。

 セカンドレグの舞台は「サン・シーロ」。セルティックはアウェーの戦いになる。常識的に考えれば、不利な立場に置かれることになる。しかし、いっぽうでアウェーゴールの恩恵が待ち受ける。セルティックが1点奪えば、ミランには2点以上が必要になる。弱者のチャレンジ精神は、おのずと勢いを増す。

 セルティックは変に守備的に戦わないことだ。一発を狙って一か八かに近い戦いを仕掛け、強者ミランを慌てさせたい。勝負のポイントは、攻撃的に戦うことができるかだ。そのうえこの一戦には、入場制限が敷かれる。3万人程度の入りしか望めそうもない。アウェーには好都合この上ない。番狂わせの可能性は、4割近くあると僕は見ている。

 それにしても解せないのは、ファーストレグでみせたミランの消極的な戦いぶりだ。アウェーゴールを奪えば、その瞬間、勝負ありだといってもおかしくないのに、彼らは必要以上に慎重に戦った。好んで0−0に持ち込んだといってもいいだろう。

 ふと頭を過ぎるのは、'02〜'03シーズンの準々決勝、対アヤックス戦だ。この時もミランは「アレーナ」で行われたファーストレグを0−0で引き分けている。アウェーゴールなど要らないとばかり、とても静かな戦いを挑んだのだ。そしてその結果、第2戦で真っ青な戦いを強いられることになった。ロスタイムに入った時、スコアは2−2。これはダメだ。敗退を覚悟したミランファンの2割近くは、席を立ち帰路を急ごうとしていた。

 ミランは91分に、マルディーニのクロス→アンブロジーニのヘッド→トマソンプッシュで、辛くもアヤックスを振り切ったが、大苦戦の元がファーストレグの戦いにあったことは明らかだった。ミランは4年前の二の舞を踏もうとしているのか。少なくとも現在のミランは、当時のミランより強くない。現在のセルティックが、当時のアヤックスより強いとも思えないが……。

 それはともかく、この試合は、ミランだけではなく「イタリア」にとっても「絶対負けられない戦い」になる。UEFAリーグランキングでの立場が怪しくなっているからだ。現在、イタリアはスペイン、イングランドに次いで第3位。4位フランスとの差は10ポイント強ある。しかしその中の8ポイントは、'02〜'03シーズンに築いた貯金で、それが失われる来年は(ランキングは過去5年の戦績の集計なので)4位転落もあり得る危機にさらされる。3位と4位とでは月とすっぽん。欧州戦線出場枠に大きな隔たりがあるからだ。

 ファーストレグのアウェー戦を引き分けたミランはまだマシな方だ。インテルはホームでバレンシアと引き分け、ローマもリヨンに同じくホームで引き分け。敗戦同然の結果に終わっている。UEFA杯の場合はもっと酷い。木曜日にパルマ、リボルノが敗れたため、勝ち残りはゼロになってしまった。つまり、欧州戦線に出場した7チームのうち4チームがすでに姿を消し、残る3チームのうち、少なくともミランを除く2チームはかなり危うい状況にある。7チームすべてに可能性があるスペイン、8チーム中6チームに可能性があるイングランドとの差は開くばかりだ。

 今季のセリエAを見れば、イタリアの凋落ぶりはハッキリと見て取れる。現在、首位インテルの勝点は63。2位ローマとの間には14ポイントもの開きがある。3位パレルモとの差は20ポイント。4位エンポリとの差に至っては28ポイントもある。チャンピオンズリーグ出場圏内の4チームの中に、ここまで力に開きが見られるリーグも珍しい。「中位以下のチームは見られたもんじゃないよ。ボールも満足に止められないんだから。セリエCの試合を見ているようだよ」。イタリア在住のベテラン知人記者は、そういって嘆く。

 この手の話を続ければ、ドイツのブンデスリーガも危機的な状況に陥っている。先日、ポルトガルに5位の座を奪われ、欧州第6位のリーグに転落してしまった。昨年のワールドカップでイタリア代表は優勝。ドイツ代表も3位に輝いているが、日常の戦いでは、低落傾向に歯止めを掛けられずにいる。これは、とりわけ日本人には、興味深い現象に見える。羨ましくも見える。尺度が2つあるところが、欧州サッカーの奥深さであり、魅力なのだ。

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