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キリンチャレンジカップ2008 VS.ボスニア・ヘルツェゴビナ 

text by

木ノ原句望

木ノ原句望Kumi Kinohara

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photograph byNaoya Sanuki

posted2008/02/04 00:00

キリンチャレンジカップ2008 VS.ボスニア・ヘルツェゴビナ<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 監督が代わると、新しく着任した指導官は前任者とは少し変わったこと、目新しいことをやろうとして、それをチームに説き、練習で試みる。急病で続投困難になったオシム監督の後を引き受けた岡田武史監督もこの例に漏れず、1月中旬の合宿から「接近・展開・連続」というお題目の下、ショートパスで密集突破という一つの試みを導入した。

 それは、オシム監督がやろうとしていたサッカーを否定するものではなく、むしろ、それにプラスアルファする形で考えていると思われる。これらがうまく融合されれば、プレーのオプションが一つ増えることになるのではないかと期待される。

 しかし、これまでと違うことを提示され、それを実行に移そうと試みる選手は、言われたことにとらわれてしまう傾向にあるようだ。勤勉な日本人気質ゆえか、3−0で勝利した1月30日のボスニア・ヘルツェゴビナとの対戦では、困ったことに、その傾向が肝心のシュートチャンスの場面で顔を出していた。

 ボスニアは、高さもキック力もありそうだったが、全体にコンディションが悪そうで、動きも鈍く、チリのように積極的にプレスをかけて来ることもなかった。

 その分、日本は比較的自由にプレーさせてもらうことができ、どこか中途半端な相手バックラインの引き具合もあって、両サイドから仕掛け、時にはサイドチェンジも使って、相手の裏を狙いながら攻撃を組み立てることができていた。

 そのあたりは、チリ戦よりは対応の柔軟さも動きの活発さも感じられて、1戦目の経験が活かされているように見えた。

 MF中村憲剛は「この前はサイドチェンジが少なかったので、今回は意識的に出そうと思った」と話し、岡田監督も、「今日は選手が自分たちで対応してくれた」と、選手の対応を評価した。

 ところが、そうやって組み立ててボックス近辺まで来ても、そこでも誰も彼もがパスを選択し、打てば決まりそうな決定的なシュートチャンスにシュートを打たない。ようやく打っても打ち損ないになってしまい、ボールが飛ばないというシーンが何度かあった。オフ明けのコンディションという点を割り引いても反応が鈍く、ゴールを狙いシュートを打つという、ゲーム本来の目的が薄れているように感じた。

 それがなければ、(なおかつ、精度が伴っていれば)前半に5回はあった決定的な得点機に少なくとも3〜4点は取れていたのではないだろうか。

 「もっとゴールへ向かうように」という監督のハーフタイムの指示を受けて、後半早々からは敏感に反応して積極的に攻撃を展開し、68分にDF中澤のゴールで先制。さらに前半途中交替で出場していたMF山瀬が終盤に2点を追加した。

 だが、1週間後にW杯予選初戦で対戦するタイを相手に、この日のように簡単にことを運ばせてもらえるとは思えない。タイは、先ごろ行った英国マンチェスターでの2週間の合宿で、日本戦を意識して守備に重点を置いた練習を重ねてきたという。昨年7月のアジアカップでも、小柄ながらも敏捷性を生かしたプレーで、決勝トーナメント進出こそ逃したが、グループリーグ同組だったオーストラリアを苦しめたことは記憶に新しい。

 今回、引分け狙いのタイが守備を固めてくることは十分想定される。そういう相手の守りをこじ開けて得点を奪うには、強引さや積極性は欠かせない。また、サイド攻撃一辺倒でも、楔に当てるプレー一辺倒でもない、状況に合わせた選手の臨機応変な判断が求められる。

 そのあたりを懸念してのことだろう。岡田監督は、「W杯予選はきれいごとではない。タイ戦にはもっと貪欲に点を取りに行く姿勢が必要」と選手への注文を忘れなかった。

 選手らは異口同音に「徐々にだがよくなっている」と話す一方で、「ゴール前でパスを回すパターンが多い」、「3分の2のところまではうまく回せても、3分の1のところになると苦しい」、「泥臭くても決めることが大事」とそれぞれに課題を口にした。

 理解はしている。あとはそれをピッチでいかに出すことができるか。予選初戦は1週間後だ。

岡田武史
中村憲剛
山瀬功治

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