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スケート界の“レーザー・レーサー”?
ウエアを巡るハイテク開発競争。 

text by

茂木宏子

茂木宏子Hiroko Mogi

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photograph byKeisuke Koito/PHOTO KISHIMOTO

posted2010/02/13 08:00

スケート界の“レーザー・レーサー”?ウエアを巡るハイテク開発競争。<Number Web> photograph by Keisuke Koito/PHOTO KISHIMOTO

バンクーバーのためのプロジェクトはトリノ直後から開始。

 カナダチームをサポートするデサントも、技術力では負けていない。地元開催の五輪でカナダにメダルを量産させようと開発にも力が入る。'97年からカナダのスケートスーツ開発を手がけてきた企画開発室R&Dセンターの板垣良彦は次のように語る。

写真カナダは選手を表彰台に立たせるため、国立研究所で風洞実験を繰り返した

「今回のスーツ開発のプロジェクトは、トリノ五輪が終わった直後の2006年5月にスタートしました。カナダ国内にはバンクーバー冬季五輪組織委員会やカナダ五輪委員会などが組織する『カナダ選手を表彰台に立たせよう(OTP=Own the Podium)』というプロジェクトがありましてね。選手強化にことのほか力を入れているんです。そのOTPに“風洞装置を使って徹底的に実験を行い、空気抵抗が一番小さいスーツを開発してカナダチームを勝たせたい!”と提案したのが、以前からぼくらとつき合いのあるNRC(国立研究機関)の風洞実験チームでした。その提案が認められたので、カナダチーム、OTP、NRC、デサントの4者がタッグを組み、試作品をつくっては風洞実験でデータを取るという作業を繰り返し、スーツをつくり上げていったんです」

ニット素材から織物素材への大変換で極薄素材に。

 メーカー主導で進めるいつもの開発とは違い、今回は言い出しっぺであるNRCが指揮を執った。流体力学的な見地から「これがいい!」という研究者たちの意見をもとに最適な素材を提案し、よりよいスーツに仕立てていく。それが板垣たちの仕事だった。

「ぼくらが今回何より注目してほしいのは、ベースとなる素材が従来のような編み物(ニット)ではなく“織物”になったということです。ループ状になった糸に次の糸を引っかけて新しいループをつくっていく編み物に対して、縦糸と横糸を直角に交錯して平面状に織っていく織物は生地を薄くすることが可能です。従来のニット素材が厚さ0.7mmであったのに対し、織物でつくった今回の素材『ThinFit』は0.3mmになりました。生地の断面積が小さくなればなるほど表面の摩擦抵抗は小さくなるので、スーツの空気抵抗も小さくできるというわけです」

 今までは伸縮性のある織物素材をつくるのが難しかったため、動きやすさやフィット感を考えると競技用のウエアには2ウェイトリコットなどのニット素材を使うことが多かったが、最近は縦にも横にも伸びる織物素材をつくることが技術的に可能になってきた。

【次ページ】 競泳水着の最新技術を取り入れたスケートスーツ。

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