バンクーバー五輪 匠たちの挑戦BACK NUMBER

スケート界の“レーザー・レーサー”?
ウエアを巡るハイテク開発競争。 

text by

茂木宏子

茂木宏子Hiroko Mogi

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photograph byKeisuke Koito/PHOTO KISHIMOTO

posted2010/02/13 08:00

 スピードスケート男子500メートルの世界記録保持者、カナダのウォザースプーンが今季限りの引退を発表した。バンクーバー五輪で次代を担う勝者が名乗りをあげるのか、王者が意地を見せるのか――日本からは、エース長島圭一郎と加藤条治が挑む!

 0.01秒を争う戦いはスケートスーツの開発にも持ち込まれた。日本チームはミズノと、カナダチームはデサントと組んだ最新鋭のスーツ。勝者はどちらか。いよいよ決着の時を迎える。
 1984年のサラエボ五輪から2002年のソルトレイクシティ五輪まで、6大会連続でメダルを獲得してきた日本のスピードスケート陣。前回のトリノ五輪では“メダルなし”の屈辱を味わったが、バンクーバーではそのリベンジに燃えている。

 期待がかかるのはやはり男子500mだ。1月の世界スプリント選手権で1、2位を占めたイ・ギュヒョク、イ・ガンソクの韓国勢が頭1つ抜けているが、今シーズンのワールドカップは試合ごとに勝者が入れ替わる混戦模様で、日本のエース長島圭一郎と加藤条治の2人にも十分に勝機はある。

 そんな選手たちの能力を最大限まで引き出して勝利に導こうというスケートスーツの開発競争も熾烈だ。1988年のカルガリー五輪から日本チームにスーツを供給しているミズノと、ジェレミー・ウォザースプーンら強豪選手をそろえるカナダチームに1997年から供給しているデサントも、4年間の努力を結集させたスーツで大一番に挑む。今ある技術の粋を集めた“勝負服”の戦いは、どちらに凱歌があがるのだろうか。

様々な競技で急成長しているスポーツウエア。

 ここ数年、選手が試合で身につけるウエアの進化が著しい。競泳の世界記録を次々と塗り替えて話題になったポリウレタン製やラバー製の高速水着に象徴されるように、水や空気などの流体抵抗と戦って100分の1秒を競う競技では、ウエアの性能が勝敗を左右することも珍しくない。金メダルをつかみ取るにはウエア選びにも気を遣い、自らの武器にしなければいけない時代になっている。

 スケートスーツの場合、選手にとって最大の敵となるのは空気抵抗だ。滑走時に体に受ける抵抗を、いかに抑えるかが金メダルへの近道となる。

「今回、日本チームが着用するスケートスーツの開発のポイントは3つありました。抵抗削減、スケーティング時の動作サポートと姿勢保持、そして着用時の快適性です。空気抵抗を小さくした素材や伸縮性の異なる複数の素材を組み合わせた結果、トリノ五輪のときより空気抵抗を約5%削減することができました。選手からも“動きやすい”と好評です」

 ミズノ製スケートスーツの開発を手がけたウエア開発課の辻中克弥は、自信を内に秘めた表情でそう語った。

ツルツルよりもデコボコの方が抵抗が少ない!?

 抵抗を抑える方法としてよく使われるのが凹凸である。抵抗の大きな箇所にわざと凹凸をつくって小さな乱流をたくさん起こし、これらが大きな乱流層を形成して物体から剥離したときに抵抗が低減する。

写真ミズノが新開発したメッシュ状の凹凸を指し示すウエア開発課の辻中

 そこで、ミズノは楕円形の凹凸をメッシュ状に樹脂加工した新素材を開発した。発想自体はとくに目新しいものではないが、今回はこれを配置する箇所に工夫を凝らしている。空気の層が体から剥離する位置を後ろに持っていくことで抵抗を抑えようと、前頭部など空気が体にぶつかって抵抗を生む箇所ではなく、後頭部にこの素材を使った。風洞実験を繰り返すうちに、空気が剥離する位置を後ろに持って行くことが最も効率的と判明したからだ。

「脚や腕などもう少し抵抗を下げたい箇所にはわざと縫い目を入れました。工場からは“いくつものパーツに分かれていると、縫い合わせるのに手間がかかる”と言われましたが、縫い目1本の微妙な凹凸でも、風洞実験をやってみると空気抵抗を減らす効果があるのは明らかだったんです」

 スーツ全体を構成するベース地には、動きやすさを考えて縦横の2方向に伸縮する縦編みのニット、2ウェイトリコット素材を使ったが、この表面も上から熱をかけてプレスすることで平滑にし抵抗を小さくした。こうして抵抗を少しずつ減らしていくことで、合計5%の削減に成功したのである。

<次ページに続く>

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