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北京の空と選手の心。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2008/08/17 00:00

 天候を味方につけたランナーは誰なのか。 一昨日の夜、大雨が降ってからは晴天が続いている。

 今朝は午前7時半に宿を出発。

 秋を迎えたかのような穏やかさだ。少々歩いてまわっても汗ばむことはないくらいな。

 陽射しで建物や地面が白く光って見える。遠くの景色がくっきり見えるほど、空が澄んでいる。

 澄んでいる……あれ? 北京と言えば、空気がかすんでいるのが当たり前ではなかったのか。雨で塵が流されたせいかもしれない。大会にあたって行なった措置、北京周辺の工場の操業停止、交通量の抑制などの効果がついに表れたのか。

 理由は分からないけれど、東京でも滅多にないほどきれいな青空が広がっている。 青空のもと、午前中は競泳の決勝、夕方からは女子レスリングに向かった。

 競泳では中村礼子が背泳ぎ200mで銅メダル。レスリングでは伊調千春が48kg級で銀メダル、55kg級の吉田沙保里が連覇を果たした。

 北島康介の泳ぎを見ていても感じたことだが、今日ふたつの競技をみて、つくづくメンタルは大きいと痛感させられた。

 中村は決勝で、タイムを準決勝から1秒08も上げてみせた。本人も言うとおり、「落ち着いて泳げた」からこそ、練習で培ったスピードが出たのである。うまく行かなかった100mのあとだけに、よくぞ重圧に潰れなかったものだと思う。

 伊調千春の決勝での敗北は、対戦相手のハイン(カナダ)との力関係を考えれば、想像しがたい結果だった。これまで敗れたことはなく、相性もいい相手だからだ。

 ただ、決勝前に危惧されていたのは、3回戦でメルレニ(ウクライナ)と対戦し、試合終了直前、フォール勝ちで劇的な逆転勝利をおさめたことだった。メルレニはアテネの決勝で敗れ、今大会も優勝候補だった選手。最大のライバルを破ったことでほっとしてしまわなければよいが、と考えたのだ。

 そして決勝では、伊調千春らしからぬ動きに終始した。

 見ていて、1996年アトランタ五輪の谷(当時田村)亮子を思い出した。あのとき谷は準決勝で最大の敵と思われていた選手を破り、優勝を決めたかのように喜んでいた。ある意味、気の抜けた状態で決勝を戦い敗れた。そのときと似ていると思ったのだ。

 つくづく惜しかったと思う。そしてどれだけ経験を重ねても、勝負の極限でのメンタル・コントロールは簡単ではないと感じた。 さて、この穏やかな気候はまだ続くのだろうか。

 明日は午前7時(日本時間午前8時)に女子マラソンがスタートする。

 選手たちは酷暑を予想して準備してきただろう。もし明日もこの気候であれば、レース展開に大きくかかわるに違いない。そして耐久レースに対応できる選手、高速レースが得意な選手、それぞれにとって有利不利が生まれる。

 そう考えると、明朝、目覚めたときの気候が気になるところだ。

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