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ブラジルの地で、セナを思う。 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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posted2004/11/02 00:00

ブラジルの地で、セナを思う。<Number Web> photograph by AFLO

 「行った方がいいと思うなぁ、後悔しますよ」

 インテルラゴス・サーキットのプレスルームへ着くなり、いきなりなり仕事仲間にそう言われた。ブラジル・グランプリを3日後に控えた木曜日のことである。

 アイルトン・セナのお墓もあるサンパウロのモルンビ地区にエルドラドという巨大なショッピング・センターがあって、そこで「セナ・エクスペリエンス」展をやっているのだという。

 セナ“様”とあがめ奉るほどの信奉者ではない。しかし、アイルトン・セナが稀代の天才であり、F1の時代を画した存在であることに異存はない。

 いささかの仕事意識、取材根性も手伝って(じゃ、ま、行ってみようか……)と出かけた。F1の時間割に従えば、行くなら午後の走行が3時で終る金曜日しかない。ひとりでは心もとないので、仲間を誘って行った。ところがフライデー・ナイト・フィーバーなのか、帰宅時間帯なのか渋滞に巻き込まれ、15キロほどの距離を1時間以上もかかって到着が夜の8時。お腹は空くワ、時差ボケで眠いワで、来たことを後悔したが、10レアル(約400円)払って会場に入って数分、これは来てよかったと思った。

 見せ方がうまいのだ。

 3D画面で見せるセナのレーシング・ヒストリーがまず泣かせた。画面にインテルラゴスとおぼしきコースが映り、そこをゴーカートに乗ったセナが走り始める。と、いつしか黄色いフォーミュラ・フォードがカートと並走して抜いて行く。すると次にフォーミュラ2000が現れ……という具合にマシンがステップアップしながらセナがセナを抜いて行くのである。重要なマシンが現れるとストップモーションがかかるのだが、セナが初めて乗ったF1マシン、トールマン・ハート・ターボが出てくるや雨が降り出し、マシンが水しぶきを蹴立てる。伝説となった1984年モナコGPのイメージなのだ。その白いマシンを今度は黒いロータスが雨の中を追い回し、抜き去って行く。これは初優勝を飾った85年のポルトガルGP……そうか、セナ・エクスペリエンス展とは「セナ追体験」展であり「セナ追慕」展なのか。

 あるいはワードローブからウェアを引き出すようにしてディスプレイされているレーシングスーツなどの遺品。1996年が有効期限のパスポートが泣かせる。さらには、巨大なヘルメットを被るとセナの解説つきでインテルラゴスのオンボード映像が走り出す仕掛け。きわめつけはセナのヘルメットのスコープに、自分の顔が取り込めるプリクラ・サービス。これはメール・アドレスを入力すると後日送ってくれるようになっている。

 こういう言い方にカチンと来るファンもいるかもしれないが、亡くなった後も数万のお客を呼べるドライバーはセナ以外にいないのではなかろうか? そういえば、知り合いの旅行代理店の話ではブラジルGPツァーを企画したら10人近い応募があり、すべてセナ・ファンの女性だったとか。あらためてセナのカリスマ性の凄さに感じ入って、その夜はカイピリーニャ(サトウキビ焼酎ピンガのカクテル)をちょっと呑みすぎた。

 セナ・エクスペリエンス展は1月12日まで開催。夜10時までやっているが、月曜日はお休みのようだ。日本で開いてくれないかなぁ、場所はお台場あたりで……などと思い始めると、またお酒がすすんでしまう。

■関連コラム► 優しくてわがままだった“複雑な”天才の記録。 (04/07/01)

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