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素質だけでは生き残れない 

text by

小関順二

小関順二Junji Koseki

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2006/03/22 00:00

素質だけでは生き残れない<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

 オープン戦、WBCが花盛りの中、3月8日からスタートした社会人野球の全国大会、スポニチ大会の観戦に出かけた。この時期は3月下旬に出版する『プロ野球 問題だらけの12球団』(草思社)の最後の追い込みにかかっているので全試合見られない。今年は全試合どころか5日間のうち2日間しか足を運べず、悶々とパソコンのキーボードを終日叩いていた。

 それでも3月9日、インボイスドームで行われた東京ガス対JR九州が見どころの多い試合で堪能できた。今年の上位指名候補、木村雄太(東京ガス・左左/189・80)と小松聖(JR九州・右右/180・80)の投げ合いは5回にケリがついた。木村が5回に1点を取られ、その回限りで降板したのに対し、小松は9回を投げ抜き、見事3対0で勝利を収めたのである。

 木村は189センチの長身を持て余しているような印象。それにくらべて小松は勝負球のスライダー2種類を気持ちよさそうに内、外角に投げ分けて三振の山を築いた(11個)。木村は秋田経法大付高時代からプロに注目された逸材。それにくらべ小松が注目されるようになったのは勿来工高でも国士舘大でもなく、社会人2年目の昨年から。木村はどんなヘマなピッチングをしてもスポーツ紙に掲載されるのに対し、小松はこの日のような快投を演じなければマスコミに取り上げられない。そういうハングリーさが木村と小松とでは随分違うような気がする。

 またピッチングスタイルでも2人は違う。小松は特別速いスピードボールを持っているわけでも、木村のような角度を持っているわけでもない。だからプロをめざそうとすれば、自分だけの武器を持たなければならない。それが小松の場合はスライダーだった。横にグニョンと曲がる横のスライダー、スパッとキレ込んでくる縦のスライダーはプロでも上位のキレ味を持っている。

 それに対して、木村は素質でピッチングをしてきたため、自分だけのテーマを持とうとせず、漠然と投げている印象が強い。木村が素質を評価されるのはアマチュアまでである。プロは最後の舞台なので、素質があろうがなかろうが結果だけが求められる。そういうことを木村はできるだけ早く知ったほうがいい。小松はそのことを既に知っているようだ。

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