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スペイン、88年ぶりの“勝利”。 

text by

横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2008/06/23 00:00

スペイン、88年ぶりの“勝利”。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

 スペイン対イタリアを10時間後に控えたウィーンの中心部。観光客がそぞろ歩く穏やかな朝を、場違いな騒音で汚す車が迫ってきた。なんたる興醒めと思いつつ、好奇心から足を止めて待っていると、スピーカーから流れてきたのは、

 「ビ〜バ〜 エスパーニャ〜」

 スペイン人が運転する、スペイン応援カーである。

 選挙の街宣車よろしく、屋根にスピーカーを付けた車を、一体どこで調達したのか。まさか、スペインから遥々運転してきたわけでもなかろう。

 しかし、イタリアとの対戦が決まってからこちら、実際にそうしかねないほど、スペインサポーターの頭には血が上っていた。

 両国は言語的にも文化・習慣的にも親戚ぐらいの関係にあるが、ことサッカーになると嗜好は正反対となり、スペインはイタリア式を蔑んでいる。それなのに、1920年のアントワープ・オリンピック以来、スペインは大きな大会ではイタリアに負けっぱなし──。

 そんなイヤな流れを、グループリーグの勝ちっぷりを根拠に、ここで断ち切れると思い込んでいたからだ。

 スペインのメディアが、また焚き付けた。

 公式戦で両国が顔を突き合わせたのは1994年の米国W杯準々決勝が最後。このときスペインはただ負けただけではなく、イタリアのタソッティのひじ打ちによって、ルイス・エンリケの鼻をへし折られた。その写真──涙目で、流血する鼻をレフェリーに指し示すルイス・エンリケ──を、新聞に、ウェブページに、やたらと載せたのである。

 闘牛を思い出してほしい。赤い布を目の前でヒラヒラさせられた牛は、そちらへ角を突き出すものだ。

 かくしてスペイン人は、大挙してウィーンに押し掛けた。試合前日、スペイン側1人に対しイタリア側2.7人ほどの割合になると予想されていたスタンドのサポーターの割合は、見たところ、1対2程度まで縮小されていたと思う。「ウィーン市内でダフ屋がいる場所」を、スポーツ紙が紙面で知らせたおかげかもしれない。声援の度合いとなると、自分が座っていた場所がややスペイン寄りだったことを差し引いても、スペインが勝っていたようだ。

 試合自体は随分退屈なものに終わったが、スペインは88年に及ぶ悲願を達成した。

 サポーターの力が決定打となった、とは言わないが、スタンドの応援が試合にどれほどの影響を与えるのか、数値化できるものなら是非見てみたいと思った夜だった。

ルイス・エンリケ

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