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大分トリニータの天国と地獄。
~クラブの身の丈に合った目標は?~ 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byKYODO

posted2009/11/02 10:30

大分トリニータの天国と地獄。~クラブの身の丈に合った目標は?~<Number Web> photograph by KYODO

'08年ナビスコカップで優勝した大分トリニータ。リーグでも4位に躍進したが、今シーズンはリーグ最下位をひた走る

欧州制覇目前でデポルがCL戦線から撤退した理由。

 欧州にはそれこそチームが無数に存在するが、そのすべてのチームがチャンピオンズリーグ優勝を狙っているわけではない。国内リーグ優勝を狙っているわけではない。CL制覇を現実的な目標に掲げられるチームは、せいぜい10チーム。「夢」であるチームでさえ100もないはずだ。長年の戦いを通して、多くの人は自らのサイズを体得しているからだ。

 デポルティーボ・ラ・コルーニャがCLの舞台から姿を消して5シーズンが経つ。'90年代後半からじわじわと力を付け、'03-'04シーズンには、ついに「欧州ベスト4」まで上り詰めた。もし、ポルトと戦った準決勝のファーストレグで、デポルのCBアンドラーデが、デコの背中を蹴飛ばしていなかったら、セカンドレグでの出場停止処分を受けていなかったら、欧州一に輝いていたに違いないと、僕はいまでもそう思っている。かなり惜しい欧州4位だった。

 時の監督ハビエル・イルレッタは、のちに僕にこう言ったものだ。「クラブが3人選手を補強してくれれば、翌シーズンも優勝は狙えた」と。

 しかし、デポルのレンドイロ会長は首を縦に振らなかった。そしてその瞬間から、デポルの凋落が始まった。欧州戦線からあえて撤退することを、会長自らが決断したからである。

 本拠地ラ・コルーニャの人口は25万。コロンブスがアメリカ大陸を発見するまで、最果ての地と言われたスペイン・ガリシア地方の港町だ。欧州戦線を戦うには体力的に無理があると判断したからにほかならない。

時代の変化を敏感に察知したからこそ、CLから身を引いた。

 ラ・コルーニャの市民に話を聞けば、納得している人7割。納得できない人3割という感じだった。よく知るベテラン記者は「仕方がない」と力なく笑った。「いい夢を見させてもらった」。これが、多くの市民に共通する声だった。レンドイロ会長への信頼の厚さにも驚かされた。この人のすごいのは、16歳から「会長」をしていることだ。ローラーホッケーチームの会長を手始めに、会長職にウン十年就いている会長のプロ。その人物が出した「NO」だけに、重みがある。

 デポルが台頭した背景には、有能なブラジル人選手を探し出してくる高いスカウティング能力があった。ベベート、マウロ・シウバ、リバウド。人口25万の地方都市のクラブに彼らがいたことが、今となっては信じられないが、かつては、小さなクラブでも努力次第ではなんとかなる社会が、CLを取り巻く世界にも確実に存在した。小クラブがビッグクラブを倒す番狂わせも多々発生した。

 しかし、デポルがCLから身を引いたシーズンと時を重ねるように、番狂わせは激減していった。デポルのような小回りが利くスカウティングが、ビッグクラブでも可能になったからだと、ラ・コルーニャの記者は語った。

 レンドイロ会長の選択は、ビッグクラブが順当に勝つ現在のCLを見ていると正しいように見える。

【次ページ】 不景気の今、最優先事項はチーム存続。現実を見据えよ。

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