佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

初入賞の陰にあった嬉しいニュース 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2005/08/02 00:00

初入賞の陰にあった嬉しいニュース<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 いっせいに「オ〜ッ!」という記者団の声が挙がった。ハンガリーで今季初ポイントを獲得した8位入賞した佐藤琢磨のレース後の“囲み”で、だった。

 今季初ポイントを得てマシンを降り、チームのトランスポーターに足早に向かう佐藤琢磨を捕まえた。

 「夏休みに入る前にレースができたというか(笑)、次につながる一戦だったと思います」

 「重たい一点ですね。1点とか8位とかって順位よりも、まずはここでキチッと完走、入賞したってことが自分にとっては大切でした」

 汗だくで自ら首筋をアイシングする彼から聞き出せたのはそのくらいのコメントだった。

 1レースで1.5リッターの汗をかくという佐藤琢磨のレーシングスーツはビッショリ。この後フィジカル・マッサージを受け、チーム・ミーティングに参加する彼を深追いもできない。

 その数十分後、メディアの前にサンダル姿で現れた佐藤琢磨は「この後夏休みはどう過ごすんですか?」という質問にこう応えたのだ。

 「ついに引越しをします。本当はもうモナコに行ってなきゃおかしいんで、その引越しをするのと、今日ここでみなさんにひとつご報告というか、嬉しいお知らせがあるんですけど、これまで永くボクを支えてくれてた彼女との間に子供ができまして、12月の中旬を予定してます。これまで皆さんに暖かいサポートをしていただいて、いまHPの方で一言ファンに向けてはメッセージを送っています。とにかく、ウン、引越しもして、父親になっても変わらぬ情熱をF1にブツけて行きたいと思うんで、これからもよろしくお願いします。レースも忙しかったし、毎週のようだったんでね、安定期に入るまではどうなるか分からなかったんで、ここまでは静かにしてたんです(笑)」

 思いがけない“激白”とはいえ、人柄のいい彼女を知っている我々はホノボノとした気分でプレスルームに戻ったのだが、ボクは(そうだったのかな……)と思い当たるところがなくもなかった。

 これはあくまでもボク個人の勝手な思いでしかなく、また結果論かもしれないが、ここ数戦なかなか予選が結果に結びつかないレースをしていた佐藤琢磨は、表情が曇っていたように見えた。それは自分が父親になるという責任感と、なかなか出ない結果とのはざまで少なからず揺れていたからではないか。父親になりましたという告白も、言い出すタイミングがあろう。しっかりした戦績が出たら言おうと思っていたのではないだろうか。

 夏休みに入る前の、そのことを言い出すにはギリギリ最後のタイミングであったハンガリーで今季初ポイント獲得。この辺りにボクは佐藤琢磨の意志と運の強さを感じるのだ。うがち過ぎかも知れぬが、この1点は“重たい”と思う。

 ハンガロリンクは暑かった。そんな中で佐藤琢磨の父親宣言は、過熱する一方のF1パドックを吹き抜ける一陣の涼風だった。

 新しい世界に出て行く佐藤琢磨の後半戦に期待したいのだ。

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