佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

心の疵は見せない 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2005/09/28 00:00

心の疵は見せない<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 おそらくこれまで佐藤琢磨が最も苦しかっただろうF1グランプリの週末を、ブラジルのインテルラゴス・サーキットでウォッチした。

 週初めのバトン残留発表が、佐藤琢磨を大きく打ちのめしたことはその言葉の端々に表れていた。木曜日の記者会見の席に現れた彼はおおむねこういう発言をしている。

 「すごく残念。常に(チームの)内部事情はアップデイトされているが、ただボクはこういう結末を迎えると思っていなかった。ボクの意見もあるし、見方もあるし、たくさん言いたいこともあるんだけど、そんなことここで言っても無駄にエネルギー使うばかりなので、それは言いません。とにかく来年以降、自分自身やり残したこと多過ぎるし、このまんまで引き下がるのは絶対しないので、必ずF1で走って行くつもりで頑張ります。もうなんの制限もないし、思いっ切り自分のレースをしようかと思ってます」

 「(来年は)このチームにはいないでしょうね、間違いなく。だから他のところで探してますけど、どこになるかは全然まだ分からないし、後でゆっくり考えます。ここ(BARホンダ)はテストドライバーを経て、サードドライバーになって、レギュラーになってたくさんいい思い出もある。ただ、もう一度ここでサードドライバーという意志はボクにはないんですよ」

 言葉を選びながらの発言。しかし時にはドキッとするような思い切ったコメントも飛び出す。こうした精神的ダメージに、現実のレースが迫って来る。いまのウップンを晴らすのはレースで暴れることしかないが、こんな精神状態で大丈夫か。

 間の悪いことにブラジルは、前戦ベルギーでのペナルティを喰らって予選10グリッド・ダウンが決まっている。

 そこでホンダ陣営はすでに載せ換えてあったフレッシュ・エンジンを予選開始前にさらに新品に換装。次戦日本グランプリでも使う“鈴鹿スペシャル”エンジンに載せ換えてあえて予選を行わず、最後尾グリッドから1回ピットストップで上位進出を狙った。

 ところが、土曜日午前中にハイドローリック系およびギヤのトラブルが発生、決勝でのシミュレーションができずじまい。

 加えて決勝ではスタート時の多重クラッシュを好判断で切り抜け、19位から11位にジャンプアップしたのもつかの間、中盤からリヤ・サスペンションのダンパー折れというトラブルに見舞われてペースが上がらない。このトラブルを察知したチームはピットに呼び込んでリタイアさせようとも考えたらしいが、琢磨はなんとかマシンをゴールまで導いた。

 結果は10位。

 「10位悔しいですけれども、今日は鈴鹿のための準備レースだったからマシンをゴールまで導くことがいちばん大事だったので、クルマが痛手負った状態でも真ん中まで持って行けたのはよかったかなと考えます」

 これで鈴鹿は予選発進順位10番手である。

 「最初アタックするグループではないってことが大事だし、5番から10番はトラックのコンディション良くなって行くし、それに10番は天候がどっちに崩れてもいちばんいいところかな(笑)。10番という事で後ろからアタックする選手もいないんで、ペナルティも受けないでしょう(周囲大爆笑)」

 最初の記者会見があった木曜日にはついぞ出なかった笑顔と冗談が花開いた。

 「次はボク自身1年間ずっと楽しみにして来た鈴鹿。ファンのみんなにはぜひサーキットまで来て楽しんでもらいたいですね。ボクの今季最高のレースを見せるつもりだし、そのための準備は全部やって来たので、いいレースをして来年のことにもつなげていかなきゃいけないと思ってます。残り2戦になって、もうテストもないので、ここまで一緒にやって来たチームメンバーと本当にいいレースをやりたい」

 心の疵はまだうずいているに違いない。しかしそれを周囲に感じさせない“強い”佐藤琢磨が戻って来た。チャンピオン争いは終ったが、それだからこそ雑念にとらわれず、佐藤琢磨の戦いを見ることに集中できる。

 鈴鹿が待ちきれないのだ。

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