佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

ペナルティ 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2006/10/05 00:00

ペナルティ<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 レースを終えて深い満足感に浸った後に、大きな失望が待っていた。

 今季セカンドベスト・タイの14位を得た数時間後、佐藤琢磨は通算2回目の青旗無視によりレースから除外というペナルティを受けてしまったのだ。

 今季8回目のチェッカー。しかも1週間後にはホーム・グランプリの鈴鹿を控えており、その盛り上がりに冷や水をかけられたようなもので意気上がらないことおびただしいが、裁定は裁定、従うより他にない。イエローカードの1枚目はどうやら第3戦のオーストラリアでもらっていたようだが、思い出すのに苦労するほど昔のことである。

 それはそうと決勝レースの佐藤琢磨は、久しぶりに満足できる走りができた。幻に終ったとはいえ、トップと1周遅れの14位はなかなかのものといえよう。

 前戦イタリアの後、スーパーアグリF1チームはシルバーストンで3日間の合同テストに参加。琢磨は山本左近の後を引き継いで1日半のテストを敢行。大きな目的は日本グランプリに向けてのタイヤ・テストだったが、これまで琢磨を苦しめた油圧系トラブルも完治。マシンの信頼性はかなり高まったといってよかった。

 ところがここで問題発生。スペインのヘレスでテスト中のホンダ車のエンジンにトラブル発生。それと同じ症状が琢磨車のエンジンに起こる可能性が高いということで、中国グランプリを前に新品エンジンと交換することになったのだ。

 「規則でグリッド10番降格になるのも残念ですが、鈴鹿が2レース目になるのが困りますね。ここ中国では鈴鹿のために抑えたエンジンの使い方になるでしょうね」と、琢磨。

 悪いことは重なるのが世の中の常か、金曜日は午前中数周したところでギヤボックス・トラブルが発生。しかも治しても、治しても同じところにトラブルが発生するような状態で、土曜日に向けてギヤボックスをそっくり取り替えることになった。しかも予選は本格的な雨に見舞われてしまった。

 「雨の準備はできていましたが、今日の路面コンディションに合ったタイヤはスタンダード・ウエット(少降水量用の浅溝)。ボクらはハンガリーで初めてウエット・タイヤで走りましたが、あの時はエクストリーム・ウェザー(深溝)タイヤでした。スタンダード・ウエットのデータがないので空気圧など大体のところに設定して走ったんですが、やはりグリップ感がなかったですね」という状態では、21位がやっとだった。規則では10番降格の22位となるが、マッサも降格、アルバースがタイム抹消で、琢磨は21番手からのスタートとなった。

 レースは濡れていた路面が徐々に乾き、最後はドライ・タイヤで走れるまでに回復。そんな中で、琢磨は実に効率のいいタイヤ交換を見せた。1回目の給油時にはあえてタイヤを交換せずスタンダード・ウエットのまま続走。その後2回目のピットインでドライ・タイヤに交換。そのタイミングの良さもあって琢磨は最速ラップで16位のタイムをマークし、トップから1周遅れの14位でフィニッシュしている。鈴木亜久里オーナーも「安定したいいペースだったよ」と高い評価を与えた。

 「やっと鈴鹿に間に合いました。鈴鹿に向けて勢いをつけるのが大事なレースだったので、この結果は嬉しい。鈴鹿ではウエットでもドライでも大丈夫です」

 その後、レース除外となったのは想定外ながら、琢磨が得た鈴鹿への強い手応えまではレギュレーションも奪えない。この屈辱を糧にするくらいのことはやる男だ。鈴鹿の琢磨が見ものである。

佐藤琢磨

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