イチロー メジャー戦記2001BACK NUMBER

洗礼。 

text by

奥田秀樹

奥田秀樹Hideki Okuda

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photograph byHitoshi Mochizuki/AFLO

posted2001/04/20 00:00

洗礼。<Number Web> photograph by Hitoshi Mochizuki/AFLO

 コンマの世界、スリリングな勝負だった。

 1秒84、メジャー最高峰、イバン・ロドリゲスの強肩がイチローを2度も刺したのである。

 1秒84というのは、捕手がボールを受け送球がニ塁に届くまでの時間である。

 「いい捕手でも1秒9から2秒の間。1秒8台なんて、なかなかいない」とはマリナーズのジョン・モーゼス一塁コーチ。

 イチローはまずまずのジャンプをした(スタートを切った)。投手はレンジャーズのエースで右腕のリック・ヘリング。

 「通常盗塁を狙うかどうかは、誰が捕手かではなく、ピッチャー次第だ。モーションが大きく、足を上げてから捕手のミットに届くまでに1秒3から1秒4もかかる相手なら狙っていける。逆にそれ以下、1秒2とかなら、よほどいいジャンプをするか、捕手の肩が並以下でないと難しい」。

 マリナーズでは、メジャーの全投手、捕手のこういったタイムをチャートにしてある。 ヘリングのモーションは決して早くない。そこで果敢に試みたのだが、ロドリゲスの精密な送球がパーフェクトに届いたのだ。50センチほど高ければセーフになっていたはずだ。

 イチローも舌を巻く。

 「(メジャーに入って)ロドリゲスから盗塁するのは大きな目標でした。でもこんなスローイングを見せられると、なかなか難しいですね、今日に関してはごめんなさいと言うしかない」

 実を言うと、96年の日米野球で既に2度対決している。そして投手がパット・ヘントゲンの時に成功、ペドロ・マルチネスの時は刺され、1-1だった。

 ロドリゲスは「あの時の知識があったから完璧なスローイングをしないと駄目とわかっていた。その通りあれしかないというような送球が出来た」とにっこりする。

 その2日前、イチローはエンジェルス戦でベン・ウェバー投手、ベン・モリーナ捕手のバッテリーからメジャー初盗塁を記録した。

 開幕12試合目、首脳陣の期待からすれば、かなり遅い初盗塁だった。

 「長打力のないうちの打線では盗塁が重要なパートを占める。イチローには常に青信号を与えてあるし、いつでも走っていいという指示を出しているんだが……」。

 モーゼスコーチは一緒にビデオで牽制モーションを研究するなど、側面から手助け、アグレッシブに狙うよう励ましていた。

 「送球が良すぎた。ついてなかったね。でもイチローもかなりこっちの投手に慣れてきたから、あと半歩はリードを広げられるだろう。そうなれば成功の確率も高まる。コーチとしては、この失敗でまた彼が慎重になり走らなくなるのが一番困るんだ」。

 よく打ち、よく守り、ここまで期待に十二分に応えていると思えるのだが、マリナーズの首脳陣もなかなか欲張りなのである。

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