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ゴールが遠かったスペイン 

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鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2004/06/17 00:00

ゴールが遠かったスペイン<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 ポルトのベッサ・スタジアムは赤く染まった。ファロでも町中にスペイン人が溢れていた。ユーロ前にバルセロナで行われたスペイン対ペルー戦が、白いユニホームのペルー人一色に彩られたのは特別だったのだと、改めて認識させられる。

 だが、スタジアムの8割がスペインの赤で埋め尽くされても、最後に笑ったのはギリシャだった。スペインは負けはしなかったが、客席の反応は正直だ。ギリシャ側は勝者のごとく騒いでいる。ベンチではオットー・レーハーゲルも大喜びだ。スペインはというと、椅子にもたれて呆然としている。サエスに覇気はなかった。グループリーグ最終戦のことを考えれば、当然の反応だった。ギリシャはロシアと、スペインはポルトガルと戦うのだから。

 ロシア戦の流れからして、スペインはメンバーを代えてくると予想された。サエスはバレロン、トーレス、シャビ・アロンソのいずれかを組み替えてくるだろうと。ところが、ギリシャ戦も初戦と何も変わらない布陣で始まった。28分にモリエンテスの先制ゴールが生まれるまでは、それでもいいようにも思えた。しかし、どうもオカシイ。スタジアムの赤はすぐさま反応する。「バレロン、バレロン」と、ラコルーニャのオーガナイザーの名を連呼し始めたのだ。それもそのはず、前半に放たれたシュートはこの1本だけだった。

 ボール・キープ率は圧倒的に高いのに、ゲームを支配できなかったのが、スペインの痛いところだった。後半に入って、ホアキン、続いてバレロンを投入しても、枠に飛んだシュートはバラハとビセンテの2本だけだ。

 66分、アンゲロス・チャリステアスのゴールで同点に追いつかれたのは、むしろ自然な流れだった。90年代にブレーメンでキング・オットーと呼ばれた指揮官の采配がはまった瞬間である。サエスとの経験の差が出た。オットーは初戦のポルトガル戦とは違うスターティングメンバーを起用し、ニコライディス、ツァルタスを後半にピッチへ送り込んだ。特に今大会初登場のツァルタスの投入は、絶妙だった。

 誰かがマークにつくであろう――そんな雰囲気だった。ノーマークでボールを受けたツァルタスは最前線に走り込むチャリステアスへ絶妙のクロスを放った。ヘルゲラの頭をかすめたボールは、ベルダー・ブレーメンでも優勝の原動力として活躍したアタッカーの足元にすっぽりと収まる。鮮やかなワン・トラップで勝負がついた。

 同点弾のボールはカシージャスの身体をこすっていった。欲をいえば、カシージャスがもう数センチ、数秒早く前に飛び出していれば、スペインはこの危機を脱することができたかもしれない。ただ、それほど守備的ではないスペインが1点を奪われたことについては、大して驚きはしなかった。問題は、それからだろう。

 決定的とは言えないまでも、スペインに追加点のチャンスはあった。両サイドからビセンテとホアキンが切り崩そうと何度も試みたが、気になったのがFWの動きである。バレロンが加わってからのラウールもしくはトーレスの1トップでは、ゴール前の人数が乏しい。ニア・サイドに走り込む選手がいない。ゴールが遠い。シュートがない。

 サエスはこの試合をどう位置づけしていたのだろうか。グループリーグは勝たなければ3試合でアディオス、おさらばである。勝っているゲームなら、ラウールをベンチに下げてもいいだろう。しかし、ゴールが欲しいとき、もっともゴールが入るといわれている終了間際の時間帯こそ、ラウール・ゴンザレスの能力が弾ける。ロシア戦とさほど変わらない選手交代にサエスの勝負弱さが垣間見えた。トーレスとラウールの2トップにバレロンを配してくれよ――客席の赤いサポーターのがよっぽど試合勘がある。

 泣いても笑っても、次はポルトガルだ。フェリぺにどう挑むか。サエスの采配にかかっている。もう、失策は許されない。このままではラウールも浮かばれない。

サエス

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