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対ハーツ 1対1期待に応えていない! 

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鈴木直文

鈴木直文Naofumi Suzuki

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posted2005/10/20 00:00

対ハーツ 1対1期待に応えていない!<Number Web> photograph by Naofumi Suzuki

 「ルゥーディイー、ルゥーディイー、ルゥーディイー……」

 聞き覚えのあるリズムが耳を打つ。後半も30分を過ぎ、試合は1−1の引き分けが濃厚だ。ホームのセルティックに先制を許した直後の前半16分、ディフェンスの連携ミスを突いてハーツの同点ゴールを挙げたのは、やはりこの男だった。

 ルディ・スカチェル──。ウェイン・ルーニーのコールを模した「ルディ」コールで、サポーターの圧倒的な支持を受けるチェコ代表MFは、ハーツ大躍進の象徴である。今季、マルセイユから移籍し、開幕10試合で8ゴールを挙げ得点王争いのトップを走る。

 終盤ショーン・マローニーとジョン・ハートソンを相次いで投入して勝ち越しを狙うセルティックの攻撃を、最後まで集中を切らさずに凌ぎきった“ハーツ”ことハート・オブ・ミッドローシアンは、見事無敗のままスコティッシュ・プレミアリーグ(SPL)の首位を守った。

 シーズンの4分の1を経過してオールドファーム以外のチームがSPLのトップに立っているだけでも、一大事である。このままいけば、あのサー・アレックス・ファーガソン率いるアバディーンが優勝した1985年以来、実に21年ぶりにチャンピオンシップがグラスゴーを離れることになる。

 このハーツの快進撃は、新オーナー、ヴラディミル・ロマノフの存在を抜きにして語れない。昨シーズン、経営破綻によるスタジアム売却騒動に揺れるクラブを救うべく現れたリトアニアの大富豪は、「3年でハーツをヨーロッパチャンピオンにする」と豪語する。もともとハーツは、若き守護神クレイグ・ゴードン、スティーブン・プレスリーとアンディ・ウェブスターのCBコンビ、そして遅咲きの司令塔ポール・ハートリーと、センターラインにスコットランド代表を揃え、3番手の地位を固めつつあった。そこへ、先のスカチェルや、リトアニア人FWヤンカウスカス、ギリシャ人DFフィサスなど少し前までならオールドファームにしか集まり得なかったはずのクオリティを持った外国人部隊が加わって、今や立派な優勝候補である。

 一方で財政難で以前のようにビックネームを獲得できなくなったオールドファームの失墜の予兆は、昨シーズンからあった。両チームとも4−0、5−0といった一方的な勝ち方をすることが少なくなり、圧倒的な優位を誇っていたホームゲームでさえ取りこぼす。専守防衛を決め込んでいた他のチームも、最近は「オールドファーム組しやすし」とばかりに自信満々で挑んでくるようになった。

 とはいえチャンピオンズリーグ(CL)への色気があって、リーグに集中できていないレンジャースと比べると、セルティックの状況は、もう少しマシである。CLの予備選では早期敗退したが、皮肉なことにそのお陰で、比較的楽なチームを相手にゆっくりとチームの立て直しを図ることができた。レンジャース戦に敗れて以後連勝を重ね、ここ1ヶ月はストラカン監督の目指すサッカーが浸透してきていた。長短のパスとドリブルを織り交ぜた、眼に楽しいスタイルの評判は上々である。前稿のアバディーン戦以来右MFに固定されている中村俊輔も「派手さはないが繊細さがある」(Scotsport SPL)と評される絶妙なタッチで、美しい攻撃のビルドアップには必ず絡んでいる。

 従って今節は、チームにとっても首位のハーツを相手に、これまでと同じパフォーマンスを発揮できるか否かを測る絶好の試金石だった。

 結果として、ハーツの堅固なディフェンスに中盤を無力化され、最近の試合で見せていた魅力的なコンビネーションが全く影を潜めてしまった。それに同調するように、中村も攻撃面では殆ど目立った活躍をできなかった。むしろこの日印象に残ったのは、試合開始からディフェンスやヘディングでの競り合いで奮闘する彼の姿だった。後半、自らのパスミスをファウルで取り返すと、後ろの席のオバさんから「よくやった、ゆるしてやる!」と檄が飛ぶ。この日怪我から復帰したアラン・トンプソンのようにディフェンス時に足を止めようものなら、彼らは厳しい叱責も忘れない。そんな地味な働きを見逃さないサポーターに囲まれて、しっかりとハートの強さを示したということは特筆しておきたい。

 それにしても、一夜明けた各紙の報道に、Nakamuraの文字はめっきり減ってしまった。唯一、サンデー・タイムズ(スコットランド版)が次の様なコラムを掲載した。──"Nakamura the

weakest link for fragile

Celtic(「ナカムラは壊れ物のセルティックの中でもっとも弱い“繋がり”だ」)"。つまりチームの繋がりの中でもっとも機能していないということである。中村は未だ期待に見合うインパクトを与えていない、という。コラムニストはこうも続ける。活躍したのは全て格下相手の時で、肝心のダービーでは消えていたし、最近数試合の役割も周辺的なものだった。同じ25番を背負ったセルティック最後のプレイメーカー、ルボミール・モラヴシクは、調子が悪い試合でも決定的な何かをもたらしてくれたというのに──。

 この日、同点ゴールを決めたスカチェルは、今夏のセルティックの獲得リストにも名前が挙がったという。左足を武器とする新加入の攻撃的MFとして、現時点でのインパクト、名声では水を開けられてしまった。11月には、レンジャースとの連戦が控えている。不振に喘ぐ彼らといえど、タフな相手であることに変わりはない。中村俊輔のシーズンを左右する、勝負の月がやってくる。

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