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「ピタゴラスの定理」に基づくア・リーグ東地区予想 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2005/04/05 00:00

「ピタゴラスの定理」に基づくア・リーグ東地区予想<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 今年のMLBは、4月3日、因縁のライバル、レッドソックス=ヤンキースの直接対決で幕を開ける。どの予想を見ても、この2チームが中心となってペナントレースが展開されることでは一致しているが、では、ヤンキースとレッドソックスのどちらが強いかとなると、意見は二つに割れている。

 ヤンキース有利と見る向きは、スターばかりを揃えた強力打線が健在である上、ランディ・ジョンソン、カール・パバーノ、ジャレット・ライトの加入で先発陣が厚みを増したから、昨年に続いて今年もヤンキースがア・リーグ東地区を制するとしている。

 と、ヤンキース有利と予想する向きは、伝統的(かつ主観的)な「スカウティング・レポート」を重視する、いわゆる「旧思考派」に多いが、これと対照的に、レッドソックス有利とする向きは、客観的な数理統計解析を重視する「新思考派」に多い。「新思考派」は、なぜ、レッドソックス有利と考えるのだろうか?

 新思考派のレッドソックス有利という主張を理解するためにまず知らなければならないのが、「PECOTA」解析だ。PECOTAについては、4回前の本コラムで紹介したが、簡単にいうと、MLBの過去の全データに基づいて個々の選手の将来の活躍をコンピュータで占う方法である。

  PECOTAは、打者の場合は、それぞれの選手がチームの得点をどれだけ上積みするか、投手の場合は、それぞれの選手がどれだけチームの失点を減らすかについて、その数字を予測する。だから、それぞれのチームについて、開幕時のロースター25人のPECOTA解析を総合すると、チーム全体の総得点、総失点を算出することが可能となる。

 新思考派の予想手法について、次に理解しなければならないのが、「野球におけるピタゴラスの定理」だ。この定理は、サイバーメトリクス(野球を数理統計的に解析する学問)の祖、ビル・ジェームズの考案になるとされているが、

 (チームの勝率)=(得点の2乗)÷(得点の2乗+失点の2乗)

とするものだ。

 PECOTAでチームの総得点と総失点を求めた後「ピタゴラスの定理」を応用すれば簡単にチームの勝率が計算できるというわけだが、以下が、PECOTA及びピタゴラスの定理を用いた今季ア・リーグ東地区の成績予想である。

  得点 失点 勝ち 負け 勝率
レッドソックス 946 754 99 63 .610
ヤンキース 877 730 95 67 .588
オリオールズ 817 844 78 84 .484
ブルージェイズ 775 863 73 89 .448
デビルレイズ 734 864 68 94 .422

 なぜ、セイバーメトリクスの予想で、ヤンキースがレッドソックスを下回るかだが、PECOTA解析は選手の「過去の名声」に惑わされることなく年齢の影響を客観的に計算するので、平均年齢が著しく高いヤンキースは、「成績が落ちる」と予想される選手が多くなるからである。

  易者風に言えば、「当たるもPECOTA、当たらぬもPECOTA」となろうが、新思考派と旧思考派のどちらの予想が当たるかも、今季の見所の一つである。

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