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“ラウール限界説”に反論する。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2004/10/13 00:00

“ラウール限界説”に反論する。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 皮肉なものだ。

 リーグ6戦でわずか4ゴール、“銀河系一”どころかスペインでも下から3番目のレアル・マドリーの攻撃陣が、それぞれの母国代表の試合では爆発したのだ。10月9日のW杯予選で、ロナウドが2ゴール、オーウェン(シュートが体に当たるラッキーゴールだったが)、ベッカム、そしてラウールがそれぞれ1ゴールずつをあげた。

 レアル・マドリーの得点激減の謎解きはここではしない。ただ“燃え尽き症候群説”も出たラウールへの批判について反論したい。

 その前に私のラウールへの評価を明らかにしておく。

  私はラウールに心酔する“ファン”でも“信奉者”でもない。これはベッカムに対しても同じなのだが、ラウールの美点を称賛し、欠点を批判する者だ。

 ごくかいつまんで言うと、私にとってラウールとは、「天才とも呼べる強靭な精神力の持ち主であり、勝利のために決して手を抜かず、逆境にも腐らないプロ意識は素晴らしい。ドリブルもスピードもフィジカルも人並みだが、90分間集中力を維持しボールに詰めることによって、クリアミスやリバウンドをゴールに叩き込む、いわゆる“嗅覚”に優れたゴールハンター。反面、口下手で内向的であるためキャプテンシーに欠け、ファンへの対応も冷たい」となる。要約すれば、サッカーへのひたむきな情熱は高く評価すべきだが、グラウンド内外での対人関係は改善の余地あり、と私は考える。

 以上のような立場だから、このレポートでも情緒的な“応援エール”ではなく、データに基づいた反論としよう。

 昨季のラウールの不調は疑いようがない。

 ゴール数11は、前年から5つ減り、得点王に輝いた2000-01シーズンの24の半分以下に落ち込んだ(以下、データは断りがない限り国内リーグのもの)。1994-95のデビュー年を含め、この記録を下回ったのは2シーズンしかない。昨夏のアジアツアーで傷めた左足の踵の炎症を抱えたままプレーを続け、3月20日のアスレティック・ビルバオ戦でのゴールを最後に、ヨーロッパ選手権を含め3カ月間にわたってノーゴールのままシーズンを終えた。こうした数字以上に、信じられないほどイージーなゴールを外し続けたり、試合中に足をもつれさせ転倒するなど、スペインサッカーの象徴とされるヒーローの姿はそこにはなかった。

 しかし、後半戦に力尽き最悪のシーズンを送ったのは、ラウールだけではない。ロナウド、ジダン、ベッカム、フィーゴ、ロベルト・カルロスも同じだ。

 レアル・マドリーの急転落の原因である、攻守バランスの悪さ、選手層の薄さは主力選手の心と体をまんべんなく蝕んだ。否、ラウールの場合はより深刻だった。

  ここに面白いデータがある。

 昨季ラウールが一度もシュートをしなかった(枠に行かなかった、ではない)試合数は7にも達し、ここ数年最悪の数字だった。ちなみに一昨年はゼロ、その前は4試合、得点王に輝いた年は2試合にすぎなかった。

  このシュートゼロは必ずしもラウールの不調を意味しない。

 なぜなら、この7試合は最後にゴールをマークする3月20日以前に記録されたものだからだ。興味深いことに、疲労困憊していたはずの後半戦の最後にシュート数は逆に急増している。特に、チームが5連敗と歴代ワースト記録を作った最後の5試合ではシュート21本と固め打ちした。この間の一試合平均シュート数は4.2本と、シーズン通算の平均2.6本を大きく上回っている。ロナウドの欠場と、連敗阻止の責任感から少々強引でもシュートを撃ちまくるラウールの姿が、データから透けて見える。

 この後半5試合のラストスパートを別にすると、ラウールのシュート数は、33試合で70本(一試合平均2.1本)。このうち枠に行ったのは約半数の30 本で、これをプレー時間で割ると89分に1本。つまり、昨季のラウールは一試合で2本しかシュートを撃たず、そのうち枠に飛んだのは1本だけだった、ということになる。

 ちなみに得点王の2000-01シーズンは58分に1本(24ゴール)、その前が60分に1本(17ゴール)であり、2001-02が83分(14ゴール)、翌2002-03が73分(16ゴール)だったから、昨季の落ち込みが際立つ。シュート数が減れば、ゴール数が減少するのは当たり前。年間7試合もシュート数がゼロ、枠に行くのは1試合に1本だけなら、11得点でも上出来に思えてくる。

 シュート数激減の理由は何か? 不調を理由にできないことはすでに指摘した。

 その答えは、ラウールのポジショニングと役割に関係している。実は、昨季のラウールは第2フォワードではなく、厳密にはミッドフィルダーだったのだ。

 マケレレの退団で中盤の守備に不安を抱いたケイロス前監督は、「相手の中盤にプレッシャーをかけ、ボールを奪う手助けをし、カウンターの起点にプレスをかけろ」と、ラウールに要求。「彼の中盤での仕事のおかげで何勝したかわからない」と、“マケレレ化”したラウールの献身ぶりを高く評価した。

  ラウールが中盤を支えていたことは、別のデータでも裏づけられる。

 レアル・マドリーは各選手の走った距離を追跡調査しているが、それによるとベッカムが90分間に13キロを走破しナンバー1。続くナンバー2が、何とラウールの11キロだったというのだ。サイドを上り下りし運動量の多いロベルト・カルロスとミッチェルですら10キロ。ゴール前の爆発力を保つため走らないロナウドと、マケレレ不在による攻守バランスの欠陥を補うために、グラウンドを駆け回らせるラウール――。同じフォワードとしてゴールを期待されるには、あまりに条件が違いすぎるではないか。

  左足の故障に加え、ミッドフィルダーの役割を負わされたことがシュート数の激減に結びつき、走りすぎが体力的な息切れも呼んだ――これがラウール不調のメカニズムだろう、と私は思う。

 そう考えると、代表だけでゴールを量産し続けたことも説明がつく。

 フリーのシュートを外し続けたポルトガルでの姿は、ラウール不調を決定的なものにした。“燃え尽き症候群説”や“限界説”が声高に語られるようになったのも、ヨーロッパ選手権からだ。だが、昨年9月から選手権までは9試合で6ゴール(親善試合を除く4試合では5ゴール)と、ゴールゲッターの面目は十分すぎるほど保っていたのだ。

  昨季のラウールは不調だった。

 しかし、その原因の中に所属チームの不手際や戦略的な要求が含まれていたとすれば、本人だけに理由を求める“限界説”や“燃え尽き症候群説”は、的外れというものだ。

 ガルシア・レモン監督は、就任後すぐに「フォワードがミッドフィルダーと同じ距離を走るのは異常だ」と、ラウールに足を止めフォワードに専念するよう要求した、という。アドバイスが効いたのか、それから国内リーグ3試合で1得点、チャンピオンズリーグ1試合で2得点。9日の対ベルギー戦でも豪快なヘディングシュートを決めた。 

 確かに、まだラウール本来の動き、切れではない。だが、まだ27歳、たった1シーズンの不調で見限るとは、性急すぎやしまいか。

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