レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

迷走を始めたブラジル軍団。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byPanoramiC/AFLO

posted2005/12/21 00:00

迷走を始めたブラジル軍団。<Number Web> photograph by PanoramiC/AFLO

 ルシェンブルゴが去り「レアル・マドリー、ブラジル代表化計画」──ブラジル人を集め(現在の4人+シシーニョ、さらにリカルディーニョ獲得の噂もあった)、ブラジル代表の戦い方(“魔方陣”)で常勝チームを作る──は、頓挫した。

 すると、とたんにブラジル軍団への風向きが変わった。追い風が向かい風に変化。監督の後ろ盾の無くなった彼らに、冷たい突風が吹き始めたのだ。

 たとえばロナウド。

 前回も紹介したとおり、ブーイングを浴びせるベルナベウの観衆を「まるでアウエイでの試合みたいだ」と批判した。ここまではいい。レアル・マドリーファンとロナウドの対立は今に始まったことではないのだ。

 今年5月のレポート『ロナウド得点王断念とファンの失望』で、〈選手よりもチームが上のスペインで愛されるのは、フォー・ザ・チームの選手。チームが彼に尽くすフォー・ザ・ロナウドの印象を与える彼は、今ひとつファンに愛されない〉とそのカラクリを指摘しておいた。

 が、マスコミの扱いが変わった。

 「ロナウド、またベルナベウ相手に憂さを晴らす」──これが、10人のオサスナと1−1で辛くも引き分けた翌日(12月19日)付けの親レアル・マドリー派、マルカ紙の1面サブタイトル。中面には「ロニーまたもやファンを攻撃」とある。どんな酷いことを言ったのかというと、「ファンの態度?いつもと同じ」。たったこれだけ! 皮肉っぽい口調だったらしいが、いくら何でもこれで1面じゃ可哀想だろう。

 確かに、オサスナ戦でのプレーは褒められたものではない。

 走らず、ボールをもらいに行かず、スペースを創らず……。とはいえ得点を決めないときのロナウドは、いつもこんなものだろう。ゴールゲット以外の貢献が期待できないことは誰もが承知し、それを許していたはずだ。彼のプレースタイルは一貫している。なのに、扱いの急変は何なのか──。

 次にロベルト・カルロス。

 「サッカーのためにいえば、彼の態度は誠実にいってブーイングに値する」と斬り捨てたのは、やはり親レアル・マドリー派のアス紙。後ろからの危険なスライディングタックルでバルドに怪我をさせ、謝るどころか嘲笑して挑発。その仕返しでプニャルが肘撃ちをすると大袈裟に痛がって退場を誘い、オサスナを10人にした。このスポーツマンシップの欠けらもない醜い一連の行為のせいで、試合は荒れに荒れて反則の応酬(開始からわずか19分で20以上)となり、ショーとしてのサッカーは台無しになってしまった。

 ロベルト・カルロスは批判されて当然だ。

 相手の左足を蟹バサミのように挟み込んだスライディングは、「醜い」、「暴力的な」、「危険な」、「ゾッとするような」と各メディアが形容したとおりのもの(レアル・マドリーの公式ホームページは「クリーンにボールを奪う」と表現。どこが!?見識を疑う)。しかも怪我させてあざ笑うとは。プニャルの肘撃ちも退場に値する幼稚でプロ意識に欠ける行為だったが、グラウンドを転がりのたうち回るロベルト・カルロスの演技には鼻白んだ。すっかり騙され怪我を心配した自分が馬鹿に見える。

 「日本はマリーシア(ずる賢さ)が足りない」などと言う声を耳にするが、速いリスタートなどで相手チームを騙すプレーはともかく、ダイブなどこういう審判を騙すプレーは好きになれない。演技力を競うのならサッカーなど止めて劇団に入ればいいのだ。

 ロベルト・カルロスには魔が差したのだと信じたい。

 私は彼をディフェンダーとしては評価しないが、怪我をさせないスライディングタックルの技術は超一流だと思っている。タックル後は速やかに足を畳んでクッションとするか、逆に、伸ばしっぱなしで足が絡まらないようにして、自分と相手の怪我を防ぐ。問題のシーンでも両足を挟み込むように閉じなければ、バルドの足を巻き込んで足首を尻で敷き、激しく捻ることはなかったはずだ(写真でみると180度近く捻っている)。彼には技術があるからこそ、相手を痛める悪意を疑ってしまう。

 「ジャンプして避ければ怪我しなかった」のはその通りだが、加害者の言い分としては非情過ぎやしないか。

 ロビーニョもまるで期待外れに終わっている。

 カディス戦で鮮烈にデビューしたときは、メッシよりも上に見えた。だが、あれが頂点だった。一発でマークを外すトラップ&フェイント、目まぐるしいまたぎフェイントはどこへ行ってしまったのか?自信が無さそうにボールをもらい、恐る恐るドリブルする。あれではディフェンダーに舐められて、突破することなどおぼつかない。ベルナベウのファンからヤジを浴びて泣きっ面のところに“蜂”にも刺されて──代理人がエルゲラやラウール、パボン、グティ、ミッチェルらを「レベルが低い」、「チームに相応しくない」などと批判──余計に肩身が狭くなってしまった。「ルシェンブルゴの退陣はロビーニョにとって悪いニュース」と心配する本人こそが、悪いニュースそのものだった。

 バプティスタも輝かしいセビリア時代とは別人だ。

 オサスナ戦ではプレスの餌食になりトラップさえまともにできず、パスをポロポロこぼしてベルナベウの観衆の怒りを買った。怪我もなくポジションを本来のトップ下に戻してもらっても、力を発揮できない。原因は……、たぶん、精神的なものだろうと思うが、私も自信がない。これがいわゆる“ビッグクラブでプレーする重圧”というものか。

 このロナウド、ロベルト・カルロス、ロビーニョ、バプティスタの4人が、オサスナ戦で最も痛烈なヤジに苦しんだ。そしてグラウンド外ではヒイキ筋だったはずのメディアからも、ことさら冷たい視線にさらされる。無残なプレーの責任はエルゲラやベッカム、パボンにもあるはずなのに。

 なぜか?ルシェンブルゴの補強策の失敗の見本としてロビーニョとバプティスタが矢面に立ち、ロナウドとロベルト・カルロスは規律と団結に欠けた弛緩した空気の象徴と見なされているからだ。

 これはある意味、不当なことだ。前監督と同じブラジル国籍であることが、不遇の根拠となっているからだ。ディオゴやグラベセンがいくら期待外れでも、ベッカムが2週間前のヘタフェ戦で乱心したかのように暴力的タックルを繰り返し一発退場を食らっても、ファンやマスコミにここまで厳しい仕打ちを受けてはいない。ブラジル軍団は、ルシェンブルゴという“重罪人”の罪を代わりに償う“スケープゴート”に仕立てられた感がある。

 ゴキブリの真似(引っくり返って足をバタつかせる)をしてゴールを祝う、ブラジル人だけの不快なパフォーマンスは、チームメイトに眉をひそめられ、ファンとマスメディアの意見を二分したが、あの時のマルカ紙の1面に踊った「楽しんでいる!」というタイトルが忘れられない。ゴールを決めチームが勝っていれば、悪ふざけもご愛嬌。ほんの2ヵ月半ほど前、3位レアル・マドリーがバルセロナに3ポイント差をつけていたころだ。今は首位バルセロナに8ポイント差。

 強い逆風がブラジル軍団の心を乱し、それがプレーを狂わせ、ファン離れを加速する悪循環から抜け出すには、ある程度カリスマを持った新監督の就任が必要だろう。噂のデシャンやイルレタなら話題性があり、申し分ないのだが……。

 と、書き終えようと思ったら、レアル・マドリーがロペス・カロ監督の今季終了までの留任を電撃的に発表した。ブトラゲーニョ副会長が前日に「水曜になれば(リーグがクリスマス休みになれば)考え直す」と煙幕を張っておいて、またもや抜き打ちでやるとはいかにもこのクラブらしい。朝刊の締め切りギリギリ、夜のテレビニュースの後、深夜のラジオ番組直前に発表したのは偶然ではなく、クラブに都合のいいメディアを選ぶ得意のマスコミ対策だろう。

 ともかく有名監督の就任はなくなった。ブラジル軍団もスケープゴートのまま。ファンとの対立で囁かれるロナウドのインテル復帰が、まさか現実味を帯びてきたなんてことは……ないだろうな。

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