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ブレーメンを決勝に導いた
「別格なる存在」。
――UEFAカップ制覇への序章。 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byBongarts/Getty Images

posted2009/05/18 06:00

ブレーメンを決勝に導いた「別格なる存在」。――UEFAカップ制覇への序章。<Number Web> photograph by Bongarts/Getty Images

 UEFAカップ準決勝の第2戦はアウェーのブレーメンがハンブルガーを3-2で下し、トータルで同点ながらもアウェーゴールのルールにより初の決勝進出を果たした。11歳でジュニア部門に入団、以後37年間ブレーメン一筋のトーマス・シャーフ監督にとっても、初めて味わう国際舞台の決勝戦となる。

 この日、試合の結果を左右した要素が3つあったと思う。

1 チームのメンタリティー

2 情報戦

3 別格なる個人の存在

 試合の流れはこうだった。12分にハンブルガーSVが先制する。しかしその後はブレーメンが83分までに3点を連取して勝利をほぼ確定させた。87分に1点差に詰め寄られたものの、ブレーメンは残り時間を無失点に抑えればいいだけ。終盤の粘り腰に欠けるハンブルガーSVに逆転を期待するのは無理な話である。

ハンブルガーSVとブレーメンでは修羅場での経験値に違いが。

 ハンブルガーSVは直近7試合で2勝1分4敗と大きく調子を落としていた。それは“時期”が関係する。UEFAカップ、DFBカップなど絶対負けてはいけない試合が続き、またブンデスリーガでも優勝圏内であったため、選手は毎回激烈なプレッシャーに晒されていたのだ。

「うまくいけば3冠達成だ」と騒ぐ無責任な周囲の声は余計に選手の心を憂鬱にさせた。邪念と計算高さが集中力を奪う。まるで自らを脅迫するかのように、選手はどんどん精神的に窮地へと追いやられた。細すぎる神経がそうさせるのだ。ハンブルガーSVは頭の中を切り替えられなかった。5年連続でチャンピオンズリーグに出場しているブレーメンとの経験の差が、まさにここに隠れていた。実際、21世紀に入ってからのリーグ成績は1度の例外を除き、すべてブレーメンがハンブルガーSVを上回っている。

 4日前のリーグ戦でハンブルガーSVは1-1(ベルリン)で引き分けた。ブレーメンは0-1(ケルン)で負けている。その試合から、ハンブルガーSVはMF2人とFW1人を、ブレーメンはDF1人とMF3人を入れ替えた。だが交代選手のクオリティーではブレーメンが圧倒したのである。ただでさえ国際レベルに達する選手が少ないハンブルガーSVで、アオゴとゲレロに匹敵する代役を探すのは非常に難しい。反対にブレーメンが投入したのは、エジル、フリングス、そしてジエゴだった。これは役者が違う。チームの総合力の違いは誰の目にも明らかとなった。

 だがなぜこのレギュラー3人が4日前の試合では外されていたのか。3人とも公式には「怪我のため」となっている。だがジエゴとエジルに限っては、「UEFAカップ第2戦のために、わざと休養させた」ともっぱらである。

マスコミのプレッシャーにも揺るがないブレーメン。

 大衆紙は「ケルン戦当日、ジエゴとエジルは別の場所で友人らとサッカー遊びに興じていた」と報道したが、これにシャーフ監督が激高。「みんな冷静になって事実を確認してくれ。記事はとんでもないデタラメだ。とにかく私たちに、静かに仕事をさせてくれ」と訴えた。

 名指しされたエジルはサッカーの試合に出かけたことは認めたが、「見学していただけ」と反論。「まだ膝と腱に痛みは残ってるけど快方に向かってる。出場のゴーサインは出てないが、出たら全力でチームのために頑張りたい」と大人の対応をしてみせ、動揺を起こすことはなかった。試合前日の6日に練習を再開したところを見れば、どちらが真実の情報だったか判断できるだろう。いずれにしても、こうした情報戦にブレーメンの中心選手はへこたれることがなかったのだ。

 勝利の2日後、『シャーフ監督、来季はヴォルフスブルクの監督に就任か?』の報道が躍った。これは混迷するシャルケ04に現ヴォルフスブルク監督のマガートが移籍することから生まれた憶測記事だ。発信元は有名な大衆紙。その本社はハンブルクにある。エジルの件もこの新聞社から生まれている。ということは……その先を勝手に想像しても楽しい。

ビッグゲームにはビッグプレーヤーが必要なのだ。

 意地悪く言えば、準決勝第2戦ではベルギー人の主審が小さな運をブレーメンにプレゼントした、となりそうだが、その見方は正しくない。確かに主審はハンブルガーSVに与えるべきPKを取らなかった。だがそういうことはどの試合だってある。試合結果を左右したのは、真に偉大なパーソナリティの存在があったから。すなわちジエゴがそこにいたからである。

 ビッグゲームにはビッグプレーヤーが求められる。ちょうどこの日のジエゴのように。個人の力で局面を打開し、チームメイトを鼓舞してやる気を引き出す選手がいないハンブルガーSVには、やはり勝ち目が薄かったのだ。

 そのジエゴだが、UEFAカップ決勝戦で優勝して花を飾りたかったのに、イエローカードをもらってしまい、残念ながら決勝戦出場が出来なくなってしまった。ずいぶん前から彼は外国のビッグクラブ移籍を熱望している。行き先はレアル・マドリーかユベントスになるはず。先日もGMがユーベ関係者との接触を認め、「本人とクラブ双方にメリットがあれば移籍もありうる」と発言して注目された。イタリアでの報道では、「移籍金2500万ユーロ(約32億5000万円)、仲介料375万ユーロ(約4億9000万円)で合意した」となっているが、これもきっと誰かがアドバルーンを上げているのだろう。ちなみに仲介人とはジエゴの実父である。

両チームともに来季への大物プレーヤーのスカウトが必須。

 こうして明暗を分けたUEFAカップ準決勝だったが、連戦の北部ダービーを通して判明したことが2つある。まずハンブルガーSVだが、バイエルンに移籍するオリッチに代わるFWだけでなく、ゲームの行方を左右できる大物MFを探さなければお先真っ暗ということである。3冠などという身の程知らずを戒め、地道なチーム作りで再スタートを切るべき。

 ブレーメンはとにかくジエゴの後釜が問題だ。かつて不遇をかこっていたヨアン・ミクーを発掘したようなスカウト力をもう一度発揮してもらいたいが、第2司令塔のエジルも選択肢の1つになる。

 10日のリーグ戦でブレーメンはハンブルガーSVを2-0で撃破。これで「19日間で4回対戦」は、ブレーメンの3勝1敗の結果に落ち着いた。大事なところですべて勝ち抜いたブレーメンの底力を思い知らされた格好だ。それもこれも……、誰のおかげと言うのであれば、やはりジエゴだろう。

メスト・エジル
トーマス・シャーフ
ジエゴ
ブレーメン
ハンブルガーSV

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