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笑顔が消えたデポルティーボ。 

text by

鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2004/09/16 00:00

笑顔が消えたデポルティーボ。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 「痛いじゃねぇか、この野郎」ルケは叫んで、飛びかかった。

 「やんのか、テメェ」パンディアーニもすかさず反撃に出る。

 ウルグアイ人の左拳がカタルーニャ人の顎をとらえた。乱闘だ。カプデビージャが間に入って、というかやられ損で突進しようとするルケを羽交い絞めにする。冷めた目のパンディアーニは「アホか」と呟いた、かどうかはその場にいたわけでも、映像を見たわけでもないので知らないけれども、聞いた話ではそれほど的外れでもなさそうだ。

 デポルティーボ・ラ・コルーニャは、またも内紛勃発である。今シーズンに始まったことではない。もっとも有名なのは4年前に起きた“ジャウミーニャ頭突き事件”だろう。練習中のゲームでPKか否かで頭に血がのぼったジャウミーニャが判定を下した監督のイルレタにヘッドバットをかましたのだった。イルレタと選手の争いはその後も絶えることはなく、起用法に不満たらたらのトリスタンと口論を続けたかと思えば、2年前にはベルナベウで完敗した試合後のロッカールームでビクトルと言い争ったという。また、チャンピオンズリーグの際、ローゼンブルグ発の飛行機が雨でラ・コルーニャに着陸できず、サラマンカの空港に下りて真夜中にバスでガリシアへ戻ることになったときには、疲労を訴えたナイベトら数名の主力選手が「そのバスには乗りたくない」とボイコットしたこともある。それでも、バスク人ならではの頑固さをイルレタは貫いてきた。欧州ではエリートの仲間入りも果たしたほどだ。

 もちろん、喧嘩するほど仲がいい、という例もある。昨シーズン、マウロ・シルバといざこざを起こしているムニティスは、「ボクもマウロと争ったけど、今ではとても仲がいい。問題ないよ」という。過去数シーズンにおいては、スペインリーグやチャンピオンズリーグで結果を残していたから、ラ・コルーニャの場合、少しぐらい問題があったほうが「今シーズンも元気がいいな」と思えるくらいだった。

 しかし、そこまで楽観的でいられないのが今シーズンの現状である。度重なる不運にイルレタは頭を抱えている。8月29日のエスパニョール戦、9月12日のオサスナ戦と、ともに相手の選手がひとり退場する幸運に恵まれながらも勝利の女神にそっぽを向かれ、オサスナ戦では先制しながらも逆転負けを喫している。10人しかいないオサスナのミロシェビッチから2ゴールも奪われるのが、いまのデポルなのか。しかも、ほんの数年前までは無敵を誇っていたリアソール・スタジアムで。

 スペインリーグで平均年齢が最も高いラ・コルーニャは、人材不足が浮き彫りになっている。セサールが、トッテナムへ去ったナイベトのポジションに入り、フランがいた左サイドは昨年からルケが引き継いでいるから、それぞれ世代交代した形にはなっていた。しかし、トリスタンが開幕からずっと負傷者リストに入り、マウロ・シルバが開幕戦に続いて再び壊れたことで、嫌な雰囲気が漂っている。

 強じんだと思われていたマウロ・シルバだが、36歳の肉体は回復力が年々遅くなっている。スタートにつまずいたブラジル人の今シーズンに不安さえ感じる。昨シーズンのポテンシャルは維持できないのではないか、と。しかも、マウロ・シルバの戦線離脱は、彼のコンディションを考えてオサスナ戦で代わりに先発したドュチェルが11分に負傷退場してからのことだった。これで、中盤の柱を2本も失った。さらには、56分にマウロと交代したビクトルまでもが故障したというから、事態は深刻である。パンディアーニとルケに美しい友情が芽生えたとしても、マウロ・シルバとドゥチェルの離脱はラ・コルーニャから笑顔を奪ってしまった。

デポルティーボ

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