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決勝の“急所”。 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byGetty Images/AFLO SPORT

posted2007/05/18 00:00

決勝の“急所”。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO SPORT

 ミラン対リバプール。2年前と同一カードのファイナルを、ブックメーカー各社は、ミランわずかに優位と読んでいる。例えば、3大ブックメーカーの一つであるウイリアムヒル社の予想では、ミラン優勝が1.66倍。リバプール優勝は2.1倍だ。

 戦いやすいのはどちらかといえば、結果的に、チャレンジャーの役割を担うことになったリバプールだ。敗れて元々の気楽さが、プラスアルファを生む可能性は十分に考えられる。

 とはいえ、ミランもチャレンジャーと言えばチャレンジャーだ。2年前、ミランはリバプールにまさかの敗戦を喫している。戦前の下馬評で上回っていただけではない。前半を3−0のスコアで折り返したとき、リバプールの勝利を予感した人はどれほどいただろうか。ミランにとっては、それは屈辱的な敗戦だった。今回はまさにリベンジ。彼らには高いモチベーションがある。精神的にはほぼ互角。

 戦術的にはどうだろうか。ミランが受けて立ってしまう可能性は高い。従来通りの布陣ならば……。

 ミランの布陣は4−4−2。しかしながら、4人のMFが3−1で構えるケースが一般的だ。その4人のMFの間には、絶対的な幅がない。サイドハーフの役割を明確に背負った選手がいないのだ。サイド攻撃の主役は、サイドバックになる。

 いっぽうリバプールは、同様に4−4−2の布陣ながら、4人のMFが、68mのピッチの横幅に対し、ほぼ等間隔で並んでいる。サイドハーフが明確に存在する。サイド攻撃をサイドハーフとサイドバックの2人が仕掛ける仕組みだ。それこそが、両者の布陣上における最大の違いになる。リバプールの布陣図は言ってみれば「怒り肩」。いっぽうのミランは「なで肩」の体型を描く。リバプールの布陣にミランの布陣をトレースすれば、マッチアップの構図は、より鮮明になる。サイド攻撃でリバプールが数的優位に立つことが。

 ミランのサイドバックが、サイド攻撃を仕掛けるためには、リバプールのサイドハーフと、サイドバックの2枚を相手にすることになるわけだ。「サイドを制する者は試合を制す」という最近の常識に従えば、リバプールが試合を優勢に進めそうな予想が成り立つ。

 リバプールには明るいニュースも降って湧いている。怪我で長期戦列を離れていたハリー・キューウェルが復帰したことだ。5月13日に行われたプレミアリーグ、対チャールトン戦では、終了寸前に劇的な同点ゴールも叩き出している。彼が左のサイドハーフに入れば、鬼に金棒。ミランの右サイドバック(オッド)は、ますます攻め上がりにくくなる。

 しかし、ミランのアンチェロッティ監督も、この構造的な問題を放置しておく凡人ではない。先のリーグ戦には4−4−2と言うよりも、4−5−1的な布陣で臨んでいる。リバプール戦を見据え、サイドの攻防に気を配っている姿勢が伝わってくる采配をしている。

 サイド攻撃で優位に立つのはどちらか。布陣上では、これこそが、注目すべき最大のポイントになる。

 いっぽう選手では、両エース、すなわちカカ対ジェラードに注目が集まる。特にミランは、サイド攻撃で後手を踏んだ場合、このエースの活躍が不可欠になる。高度なカウンターは、彼のスーパーテクニックなしには結実しない。

 両者を単純に比較すれば、今季、バロンドール級の活躍を見せているカカに軍配は上がる。巧さでは、カカに一日の長がある。しかし、それはマイボールの時に限った話だ。オフザボールの際には、逆にジェラードの方が存在感を際だたせる。そのボ−ルと相手を追いかけるプレッシング能力には、破壊的な威力がある。2年前の決勝で、リバプールが0−3から同点に追いつくことになった原動力も、ジェラードだった。彼が猛然とプレッシングを掛けると、ミランの選手は途端に落ち着きを失ったのである。

 ジェラードは、シーズン途中まで右のサイドハーフを担当することが多かったが、ここに来て真ん中を担当する機会が増えている。活躍度もそれに比例するように高まっている。しかし、ジェラードが真ん中を務めると、もう一人の主役であるシャビ・アロンソが出場の機会を失うことにもなる。2人が揃って真ん中を務めると、全体のバランスが乱れることは、これまでの事象からも明白なのだ。

 準決勝(チェルシー戦)の第2戦では、マスケラーノがジェラードの傍らで構えている。そして、その采配はズバリ的中した。狡くてしぶとくて、ガッツがあるこのアルゼンチン代表は、プレッシングの主役を見事に演じきったのだ。決勝進出を決めた立役者といっても過言ではない。

 ジェラード、マスケラーノ、シャビ・アロンソの3人の共存は、4−4−2を4−2−3−1にすれば可能である。ジェラードをトップ下で起用すれば問題は解消されるのだ。ベニーテス采配に、それくらいの自在性はある。プレッシング強化のために4−4−2を、3−3−3−1に切り替えた2年前の例もある。

 アイディアの数では、アンチェロッティより上だろう。長年、横綱チームの監督を務めてきたアンチェロッティに対し、ベニーテスが務めてきたチームは、大関関脇クラスだ。そうした彼の宿命によって育まれた産物こそが、2年前に起きた番狂わせの最大の要因だ。今回も工夫が結実する場面は生まれるか。決勝戦は、180分の戦いではない。わずか90分。延長を含めても120分だ。工夫はスピーディに実行されなければならないし、それが2年前のように実を結ぶ可能性も、高いわけではない。しかしベニーテスは、それに懸けなければならない。

 ミランではセードルフにも注目したい。派手なカカの脇で、地味な彼が輝くような展開になれば、ミランの勝機は高まる。彼のプレッシング能力も、見逃すことはできない武器になる。マスケラーノと彼は同様な存在で、その優劣も、見所の一つだと思う。輝くのはどちらか。僕の予想は五分五分。緊張感漲る好試合になること請け合いだ。

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