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ストラカンが選んだ新たな仲間たち。 

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鈴木直文

鈴木直文Naofumi Suzuki

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posted2006/01/26 00:00

ストラカンが選んだ新たな仲間たち。<Number Web> photograph by Naofumi Suzuki

 セルティックは今節対戦したマザウェルという小さな隣町のクラブに対して不思議と相性が悪い。昨シーズンの最終節、残り3分からの逆転劇でセルティックのリーグ制覇を阻んだ因縁の相手で、今シーズンの開幕戦も4−4という熱戦を演じている。鬼門の“ファー・パーク”(マザウェルのホームスタジアム)に乗り込んだセルティックは、DF陣に不安を抱えていた。CBのボボ・バルデ、スティーブン・マクマナスをそれぞれアフリカン選手権と出場停止で欠き、その穴を埋めるはずのロイ・キーンも金曜日の練習でハムストリングスを痛めたため、アダム・ヴァーゴとスタニアフ・ヴァーガという慣れない組み合わせで望まざるを得なかった。蓋を開けてみればこのコンビはよく機能したが、いつもの右サイドではなく左MFで先発出場した中村の体調不良のためもあってか、むしろ攻撃面の勢いを欠いていた。それでも中村に代わって途中出場したマッギーディの活躍でしっかり勝ち点3を確保した。これで2位のハーツとの差は10ポイント。シーズン序盤の混戦模様はどこへやら、早くもタイトルは決まり、という雰囲気である。

 この冬の移籍市場での動きをみても、ストラカン監督は既に来年以降を見据えた補強に余念がない。戦術の浸透だけでなく、選手の顔ぶれの面でも一層「ストラカン色」が深まりそうである。新旧交代を象徴するように今月早々、FWのクリス・サットンがチームを去った。サットンは、前監督のマーティン・オニールが就任して最初に獲得した選手である。“キング”ラーションの「最良のパートナー」として活躍しただけでなく、中盤やCBでもプレーできる稀有な存在だった。その彼がプレミアで降格争い中のバーミンガム・シティーへと移籍してしまったことで、“ポスト・ラーション”“ポスト・オニール”的色彩がいよいよ鮮明になった。CBのヴァーガや右ウイングバックのディディエ・アガートらの放出も時間の問題だろう。

 一方でストラカンはこれまでのところ4つの契約を成立させた。監督の方針は「より若く、より速く、より元気な」チームを作ること。特筆すべきは、「スコットランド化」の進展である。長年、レギュラーにスコットランド人が1人か2人しかいないことが普通になっていたが、新加入選手の4人中3人がスコットランド人である。

 まず、新加入の1人目はダンディー・ユナイテッドから50万ポンドで獲得したU−21代表のマーク・ウィルソンという若者。層の薄さが指摘されていた待望の右SBで、中盤も器用にこなす(マザウェル戦ではベンチ入りしたものの出番はなかった)。

 更に、いわゆる「ボスマン・ルール」、つまり今夏で契約を満了するため移籍金が生じない形で、スコットランド代表のレギュラー2人と前契約を結んだ。共にチーム合流はシーズン終了後になる。まずヒブスのキャプテンを務めるDFのガリー・コールドウェル。昨年のイアン・マリー(現レンジャース)に続き、ヒブスはまたもキャプテンをオールドファームにタダで引き抜かれてしまった。

 もう一人は、CFのケニー・ミラー。先のW杯予選後半、あのイタリアからゴールを奪うなど4ゴールを挙げて巻き返しの立役者となった。彼もまたヒブスでデビューし、レンジャースに引き抜かれたクチだが、レンジャースでは芽が出ずにイングランドのウルバーハンプトン・ワンダラーズ(ウルブズ)へ売られてしまった。今回、ウルブズと代表での活躍が認められてのSPL復帰となるのだけれど、レンジャースとセルティックの双方に在籍するのは何と30年ぶりのことらしい。

 代表の主力クラスを2人も、しかも一銭も払わず獲得したのだから、ファンはさぞかしお喜び……と思いきや、一部からはブーイングも上がっている。何でも「来年のCLを考えると心許ない」のだとか。ストラカンにしてみれば「本来なら3人合わせて500万ポンドかかるところを50万ポンドで済んだんだから450万ポンドの節約だ」となるわけだが、ファンの心理はどこまでも貪欲だ。しかも、もう一人、ロイ・キーンというワールドクラスの選手をタダで獲得したことも、もう忘れてしまったようである。

 もっともロイ・キーンの加入は「より若く、より速く、より元気な」という方針からすれば、「ボーナス」に過ぎなかったのかもしれない。事実、彼がマンチェスター・ユナイテッドを退団し「第一志望はセルティック」との風評が立っても、クラブ側は悠然たるものだった。「来たいというなら喜んで受け入れるが、法外な給料は払えません」と発表したきり、慌てず騒がず趨勢を見守っていた。各紙の論調をみても、「今のセルティックはうまく機能しており、キーンは必要ない。却ってロッカールームの雰囲気を乱すリスクを負うことになる」という意見が大勢を占めていた。ましてや、中盤の底には同い年で同じアイリッシュマンのニール・レノンが、キャプテンとして、キャリア最高と言われるパフォーマンスを見せているのだ。キーンを獲得してもどこで起用すればいいのだろう。

 こうしたジレンマの中、結局獲得に踏み切った理由をストラカンはこう語っている。

 「ただ単に、世界で最も偉大なプレーヤーの一人を獲得するチャンスを見逃すわけにはいかなかったのさ」

 とはいえ最終的にこの移籍を実現させたのは、一週間のサラリーで言えば9万ポンドから2.5万ポンドへの減額を受け入れても、少年時代から憧れたセルティックでプレーしたい、というキーン自身の強い想いに他ならない。

 結局今冬のストーブリーグの仕上がりは、キーンを別にすれば、格別な大型補強はなく、一部のファンの不満も理解できないことではないが、セルティックの財政状況からすればこれ以上は高望みと言わざるを得ない。“ポスト・ラーション”のチーム作りの核は、クラブが契約延長に躍起になるスティリアン・ペトロフであり、ジョン・ハートソンであり、そして昨夏の補強の目玉であるマチェイ・“マジック”・ズラウスキであり、中村俊輔なのである。マーティン・オニールのサッカーの真骨頂は、ヨーロッパの舞台でこそ発揮された。ストラカンのサッカーが来シーズンのCLでどこまで通用するのか、中村俊輔に率いられた"スコッツ"達の活躍に気の早い想像を巡らさずにはいられない。

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