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ロビーニョ、フィーゴそして3つ目の探し物。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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posted2005/07/21 00:00

ロビーニョ、フィーゴそして3つ目の探し物。<Number Web> photograph by AFLO

 レアル・マドリーが今、必死で探し求めているものが3つある。

 第一に、ブラジル代表の若きゴールゲッター、ロビーニョ移籍の正式発表だ。

 「今にも決まる、すぐに決まる」という勢いだったのに、半年が経ってもまだ折り合いがつかない。ロビーニョ本人は大っぴらに移籍を希望しているが、所属チーム、サントスが契約金不足を理由に放しそうにない。怒った彼は練習参加を拒否。クラブ側は制裁をちらつかせてこれに対抗。クラブ側が「練習に出てこない限り交渉には応じない」と発表し、両者の争いは泥沼の様相を呈してきた。

 とはいえ、これはフィーゴ、ジダン、ロナウドも通ってきた道。「出せ!」、「出さない!」の争いは、必ず選手側の勝利で終わるものだ。昨年のオーウェン(リバプールからレアル・マドリーへ)、エトー(レアル・マドリーからバルセロナへ)しかりである。そもそも、不平タラタラ、嫌々プレーしながら残留されても、選手にもクラブにもメリットは何も無いからだ。

 同じくブラジル代表のバプティスタを引き抜かれようとしている、セビージャ会長デル・ニドが含蓄のある言葉を吐いている。

 「会長を20年やってきたが、移籍を望んで出て行けなかった選手を1人も知らない」

 その通り!バプティスタ残留に悲観的どころか、諦観(あきらめ)を通り越し、達観さえ感じられる。デル・ニドは、プロサッカーの世界が夢やロマンを売る一方で、お金の力がモノを言うリアルなビジネス、ビッグクラブが弱小クラブを食らう弱肉強食の世界であることを、知り尽くしている。彼自身、あとはどれくらい“商品(バプティスタ)”を高く売るか算盤勘定しているところに違いない。

 ロビーニョの件も移籍金をほんの少し上積みすれば、一件落着となるだろう。争うサントスとロビーニョ、それを静観するレアル・マドリー。誰が先に折れるか、要は駆け引きなのだ。

 第二に、フィーゴとオーウェンの移籍先だ。

 退団が決定しながら、行き先が決まらないままアメリカツアーに同行したフィーゴはインテル入りが決まりそうだ。フロントは移籍金をゼロにすると太っ腹のところを見せ、彼を暖かく送り出すつもりらしい。契約が決まればツアー途中でも帰国するというから、日本へやってくるかどうかは微妙だ。

 オーウェンはあくまで「ロビーニョ加入が決まったら」という条件がつく。ロナウド、ロビーニョとのポジション争いに、場合によってはラウールが加わる可能性もある。そうなれば、オーウェンがレギュラーになれる可能性は小さい。候補としてはマンチェスター・ユナイテッド、古巣のリバプール、チェルシーが噂に上っている。

 ラウールのフォワード起用については、まずレアル・マドリーがトップ下、いわゆる“10番”の選手を探しているという噂があり、そうなればあぶれるラウールがフォワードに回される、という憶測がスペインメディアにあるからだ。

 私は以前、『補強とは、スターを集めることではない。』(6月8日付け)というレポートで、こう書いた。

 〈この2トップの本当の問題は、その下でプレーするはずのラウールである。ダイヤモンド型の頂点に位置するこのポジションには、理論的には、まず守備ができる選手を置くべきだ。2トップ、1ボランチの構造的な弱点はセンターラインだからだ。そのうえ、パスが出せ、ミドルシュートが撃てるなら理想的。この点、先のリストに名が挙がっていたランパード、ジェラード、バラックはこの特徴にピッタリだが、ラウールには当てはまらない〉、〈もしラウールがレアル・マドリーの象徴でなければ、行き場所のない彼は放出されていたのではないか。攻守のバランスを考えると、それが当然の帰結だ〉と書いた。

 もしルシェンブルゴが10番の補強を断行すれば、ラウールをフォワードに戻すこともあろう。

 それにしても“レアル・マドリーの象徴”と呼ばれた男が、レギュラーの座を約束されていない状況は屈辱に違いない。来季が彼にとって大きな節目になりそうだ。

 三つ目にレアル・マドリーが探し求めているもの。それが精神的な強さである。

 「我われは“精神的に強い”チームであることを証明した」と、アメリカツアーの第1戦を逆転勝ちで飾って、エミリオ・ブトラゲーニョ(レアル・マドリー副会長)は胸を張った。「勇敢で“精神的に強い”選手だ」と、新加入のパブロ・ガルシアをルシェンブルゴはほめたたえた。

 この両者のコメントの部分には、スペイン語でcarácter(カラクテル。英語ならcharacter)という言葉が入る。サッカー界では“カラクテルを持っている選手”という言い方をよくする。“メンタルが強く、精神的にたくましい”、という意味に加えて、“ヤンチャで、闘志を表に出す”というニュアンスもある。

 たとえばグラベセンはカラクテルのある選手だが、ラウールはそうではない。粘り強く集中力のあるラウールだが、内に秘めていては形容の対象外だ。ミスした仲間を怒鳴りつけ、落胆する仲間を励ます──日本でもプレーしたドゥンガなどは典型的にこのタイプだった。強いチームには大舞台でも萎縮せず、逆境でも動じない、精神的に仲間を引っ張るリーダーが必要だ。リーグ優勝したバルセロナにはプジョールとデコがいるし、ヨーロッパチャンピオンのリバプールにはジェラードがいる。

 就任以来一貫して、銀河系軍団の精神的改造を手がけてきたルシェンブルゴは、どうやら補強でもそれを成し遂げたいらしい。

 グラベセン、パブロ・ガルシアと立て続けに同じタイプの選手(守備的ミッドフィルダー、カラクテルのある選手)を獲得したのは、むろん戦略・戦術的な要請もあるが、スターの寄せ集めのチームに、一本の精神的な柱を通して団結力を強めたいからだろう。「同じ目標を持つ集団にしたい。個人主義は嫌いだ」、「全員がチームのために犠牲にならねばならない」と、今季初練習の前にまたもや彼は口を酸っぱくして語った。もう耳にタコができるほど聞かされたフレーズだ。

 団体競技の監督がチームの団結をうたうのは、別に目新しくも何ともないが、ルシェンブルゴの繰り返す言葉は、通り一遍のお題目ではない。心技体のうちレアル・マドリーには、本当に「心」が足りないのだ。

 レアル・マドリーの3つの探し物のうち、実はこれが最も難しい。来季、レアルが復活を果たせるかどうかは、この3つ目を手に入れられるかどうかにかかっている。

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