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プロ野球とボールを巡る問題。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byKoji Asakura

posted2005/02/24 00:00

プロ野球とボールを巡る問題。<Number Web> photograph by Koji Asakura

 "飛ぶボール"については以前にも一度書いたが、それが最初に問題になったのは1980年だった。プロ野球コミッショナー事務局編の当時の『オフィシャル・ベースボール・ガイド』にこうしるしてある。

「さてシーズン開幕。プレーボールとなると早々、面倒な問題が飛び出した。"飛び過ぎボール"である。事の起こりは4月8日、日生球場での近鉄ーロッテ戦。近鉄の攻撃で4回、5回にそれぞれホームランが出た。近鉄の使用球は以前からよく飛ぶとの定評があったが、ロッテの選手がそのボールを調べて見ると"合格"のマークが入っていなかったというので、審判に訴え出るという事件があった」

 そこで当時の下田武三コミッショナーが日本車両検査協会にボール反発係数測定器を発注して測ってみると、ボールメーカー7社のうち、旧バファローズの使用球のミズノ社のボールだけが、ホームラン性の当たりで平均距離にして10数メートル飛ぶことが分ったのである。

 そのボールを使う以前の旧バファローズの年間ホームラン数はほぼ100本前後だったが、その80年にはじつに239本に増え、翌81年からコミッショナーがそのボールの使用を禁止すると、149本に減った。いかにその威力がすさまじかったかが分る。

 下田コミッショナーが使用を禁じて以後、"飛ぶボール"はしばらくなりをひそめていたが、近年また問題になるようになった。2000年までは650本から750本前後で推移していたパ・リーグのホームランの総数がとつぜん1021本にはね上がった2001年ごろからではないかと思う。ちなみに、パ・リーグはいつのころからか全球団がミズノ社のボールを使うようになり、セ・リーグでもそれを真似てミズノ社のボールを使いはじめたジャイアンツが、去年259本というホームランを量産したのは周知のとおりだ。

 ホームランというのは、もともと外野手から守備機会を奪うものだ。しかし、それが本物のホームランによるものであれば納得するしかないが、"飛ぶボール"によるものであるなら、野球を殺すものというしかない。本来なら外野手のものである外野フライを、ボールの力でスタンドに入れてしまうというのは、野球を野球でなくすることだからだ。

 それを示す数字がある。パ・リーグの外野手の刺殺数のいちじるしい減少だ。刺殺というのはボールを直接捕球してアウトにすることだが、それが、"飛ぶボール"の出現以前の76年にはパ・リーグの外野手全体で5200あったのが、すべての球団がミズノ社のボールを使った04年は4564になっているのである。

 むろん、それがすべてボールのせいだとはいいきれない。昔にくらべて外野手の質が落ちたということも考えられる。しかし、"飛ぶボール"によって、本来なら外野フライだった打球がホームランになったり、フェンスを直撃するようになって、直接捕球できなくなったこととまったく無関係ともいえないだろう。

 12球団監督会議で、今シーズンからすべての球団がそういうボールを使うのをやめて、"飛ばないボール"に統一すると合意したのは1月27日のことだが、彼らもようやく飛ぶだの飛ばないだのといわれるボールが平気で使われているおかしさに気づいたのだろう。ミズノ社も今後は"飛ばないボール"をつくると発表した。あとはすべての球団が抜け駆けをしないで、この合意を守ることを願うばかりだ。

■関連コラム► 「飛ばないボール」が野球を変えた。 (2005年11月18日)
► 飛ぶボールが野球を壊す。 (2004年5月11日)

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