レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

ロビーニョ、バプティスタ獲得ではみ出す人たち。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byMarcaMedia/AFLO

posted2005/08/03 00:00

ロビーニョ、バプティスタ獲得ではみ出す人たち。<Number Web> photograph by MarcaMedia/AFLO

 もうこれは“超銀河的”である。

 私はこれまで地球的発想で、レアル・マドリーの補強策にあるときは感心し、あるときは笑ってきたが、所詮それは論理だの、常識だのに囚われた狭い議論に過ぎなかった。フロレンティーノ会長の頭の中は、そんなスケールの小さな尺度では測りきれない。

 レアル・マドリーがロビーニョとバプティスタを獲得した。私は前回のレポートでバプティスタに触れたが、まさかレアル・マドリーが獲るとは思わなかった。

 これは次のような理由で銀河を超える発想だった。

 まず、サムエルの放出が決まったこと。

 サッカーにはご承知のように攻守バランスという言葉がある。ベッカムを取りマケレレを放出したとき、あるいはビエイラを取らずオーウェンを取ったとき、私を始め“小物”たちは「攻守バランスが悪い」などと批判した。「ジダンたち、パボンたち」(攻撃陣にスターを集め守備陣を生え抜きの若手でまかなう)とのフロレンティーノ会長の補強方針を、攻撃偏重のいびつなチームを作る元凶と槍玉にあげた。

 会長にもそんな下々の声が届いたかに見えた。

 昨夏にローマからセンターバックのサムエルを獲得。シーズン途中には守備的ミッドフィルダーのグラベセンがやって来た。オフシーズンに入ってもやはり守備的ミッドフィルダーのパブロ・ガルシアと右サイドバックのディオゴを獲得。攻撃に傾き過ぎたバランスを守備側に揺り戻すか、に思われた。

 ところが、大枚をはたいて獲得したはずのサムエルは1シーズンで出て行かねばならなかった。ロナウド、ロビーニョ、バプティスタのブラジル代表トリオで外国人枠が埋ってしまったからである。つまりこの補強は、実質的には、センターバックを出してフォワードを連れてくるという、守りを犠牲にしての攻撃の強化なのだ。サムエルの後任には、若手のパボンか、怪我で1試合も出ていないウッドゲートが有力だから、これは「ジダンたち、パボンたち」の再現ともいえる。

 算盤勘定の上でも、常識外れの大盤振る舞いである。

 昨年サムエル獲得にかかった金額は2400万ユーロ(と言われている)。これはたとえばオーウェンの契約金の2倍という破格のもの。放出するなら、なるべく元をとろうとするのが常識的な考え方だが、外国人枠からはみ出すことで、足元を見られたのだろう、結局インテルが約1700万ユーロで獲得を発表。1シーズンで9億円ほどの大損だが、そんな些細なことにはこだわらないということか。

 オーウェンが出て行くのも時間の問題だ。

 ロビーニョ獲得だけでも決定的だったのに、バプティスタまで来てはもう駄目押しである。

 オーウェンはフロレンティーノ会長の隠し玉だった。

 昨夏サムエル、ウッドゲートの両センターバックを獲り、ビエイラにオファーを出して破綻した守備を強化していたかに見えた矢先、電撃的に獲得。フィーゴ、ジダン、ロナウド、ベッカムに続いて、「毎シーズン、世界的な選手を獲得する」という公約を会長が果たした反面、「私が獲れと言ったのではない!」とカマーチョ監督が言い訳せざるをえなかった。

 なのに、たった1年で放出。

 ルシェンブルゴの就任で、チーム作りがブラジル寄りに変わったことは事実。ベッカム、ウッドゲート、オーウェンを目玉にしてのイギリスでのマーケティング戦略が不発に終わったことも影響しているかもしれない。

 王手がかかったのはオーウェンだけではない。レアル・マドリーの象徴、ラウールも窮地に追い詰められた。

 私は前回のレポートで、「レアル・マドリーがトップ下、いわゆる“10番”の選手を探しているという噂があり、そうなればあぶれるラウールがフォワードに回される」と書いた。ルシェンブルゴの採用する2トップ、1ボランチ、中盤がダイヤモンド型に並ぶ4−1−3−2でのトップ下として、ラウールは不適切と考えるからだ。

 一方、このフォーメーションのトップ下として、理想的なプロフィールを持った選手がバプティスタである。

 コンフェデレーション杯でのブラジル代表のフォワードとしての彼しか見ていない人には意外かもしれないが、バプティスタはサンパウロ時代の2年前まで守備的ミッドフィルダーだった。183センチ、76キロで“キングコング”のあだ名を持つ強力なフィジカルは、もともと敵のアタッカーを潰す“壊し屋”として使われていたのだ。その彼をトップ下に抜擢、2年間で38ゴールのゴールゲッターとして開花させたのが、昨季までのセビージャ監督、カパロスである。

 守りの専門職から転向したフォワード、強靭な肉体でフィジカルコンタクトを辞さず、レアル・マドリーに欠けていた高さもある、スペインリーグ出身で適応の心配がない、ロナウド、ロビーニョとプレー経験がある──改めて考えてみると、これほどピッタリくる人材があろうか。

 そう、完璧な補強なのだ。サムエルとオーウェンと、そして何よりラウールを犠牲にすることを除けば。

 私が考える最強のラインアップは以下のとおりだ。

            カシージャス

ミッチェル・サルガド エルゲラ パボン ロベルト・カルロス

             グラベセン

   ベッカム                ジダン

            バプティスタ

   ロビーニョ              ロナウド

 当然、ラウールの名前は無い。

 ここ2シーズンの出来では、ロビーニョかバプティスタかジダンの控えに回るのが順当だろう。

 スペイン人であり、キャプテンであり、生え抜きであり、レアル・マドリーの象徴であり、ファンのクラブ愛を投影する対象である彼をベンチに追いやることが、どんな結果をもたらすのかは予測がつかない。

 ラウール本人は「ポジションは勝ち取るもの」と優等生的発言をしている。そのとおりだ。

 だが、力のあるライバルのいないロベルト・カルロスやベッカムは、本当に“勝ち取った”のか。サムエル退団で“棚からボタ餅”のパボン、ウッドゲートはどうか。ポジション争いは公平ではなく、競争原理ではすべてを正当化できない。そこに、“自分はなぜ過酷な状況に置かれねばならなかったのか”と、ラウールが疑問を抱く余地がある。

 ロビーニョとバプティスタの同時獲得が衝撃的だったのは、フロレンティーノ会長がこうしたことをすべて承知で断行したことだ。

 画期的でリスキーな未曾有の大改造が、今スタートを切った。

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