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13連勝と薬物禍。
~ラミレスを失ったドジャースの行方~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byHarry How/Getty Images Sport

posted2009/05/13 06:00

13連勝と薬物禍。~ラミレスを失ったドジャースの行方~<Number Web> photograph by Harry How/Getty Images Sport

 好事魔多し、とはこのことをいうのか。「好事」とは、ドジャースのホーム開幕13連勝を指す。「魔」とはマニー・ラミレスの50試合出場停止処分を指す。2009年5月6日が「近代大リーグの新記録」(19世紀にはシカゴ・ホワイトストッキングスが開幕21連勝を記録したことがある)達成の日で、翌7日が主砲処分の発表の日。ドジャース・ファンは、高速エレベーターで昇降を強いられた気分だったにちがいない。

スーパースターたちは……あの怪しげな金融商品と同じだった。

 処分の理由は薬物規定違反である。またか、と思ったのは私だけではあるまい。カンセコにはじまって、マグワイア、ジオンビ、パルメイロ、ソーサ、ボンズ、クレメンス、あげくはA・ロッド。20世紀終盤から21世紀初頭にかけてのスーパースターが、そろいもそろって薬物規定違反である。言葉を換えれば、パワーヒッターであれパワーピッチャーであれ、「パワー」という形容はすっかり眉唾ものとなってしまった。これじゃ、アメリカの怪しげな金融商品と大差ないではないか、ダーティ・ダズン(映画『特攻大作戦』の原題)ならぬダーティ・ナインではないか、と嫌味をいわれても反論するのはむずかしい。

 私は、今季のドジャースにひそかな期待をかけていた。理由の第一は、監督就任2年目を迎えたジョー・トーリがチームのツボをつかみはじめてきたこと。もうひとつの理由は、昨季後半からラミレスの加わった打線が、20年前にワールドシリーズを制したドジャースと似た匂いを放ちはじめてきたことだ。R・ファーカル、O・ハドソン、M・ケンプ、R・マーティンにラミレスを足せば、S・サックス、M・マーシャル、J・シェルビー、M・ソーシアにあのカーク・ギブソンが加わった1988年の攻撃陣を上回る。西海岸の軽いロックグループだった80年代後半のドジャースは、ギブソンというブルージーなシンガーが入ることで渋いバンドに一変したのだった。

 ラミレスという奇矯な天才打者も、似通った効果をもたらしている。愛嬌のある顔つきなのに極端な無口で、バットを振るたびにドレッドロックの長髪が揺れる姿には、どこか絶滅種の動物を思わせるふしがある。ケンプ、A・イーシア、J・ローニーといった若手の成長もラミレス効果の産物というべきか。

それでもドジャースは侮りがたい。

 そんなラミレスの抜けた穴は、もちろん大きい。戦力の急降下に加えて、5月中旬以降は、マーリンズ、メッツ、カブスといった好調な相手との対戦も控えている。不振の西地区4球団をカモにして貯金を増やした時期のような幸運はそうそう続かない。

 それでも私は、今季のドジャースは侮りがたいと思っている。やや手薄だった先発投手陣にJ・ウィーヴァーが戻り、黒田博樹の復活も近いからだ。ラミレスが帰ってくる7月上旬までの50試合を勝率5割前後で乗り切れば、リーグ制覇の可能性もかなり出てくる。いや、それよりもまず、野球が今後も続くことを忘れずにいよう。野球を楽しくするスーパースターの存在はあっても、野球を停めてしまう選手はこの世にいないのだから。

■関連コラム► 「マニー・ラミレスよ、お前もか」 スーパースター達の薬剤汚染 (2009年5月12日)
► トーリ就任の裏にあるドジャースの政変劇。 (2007年11月12日)

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