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低身長スコアラー、アール・ボイキンス。 

text by

小尾慶一

小尾慶一Keiichi Obi

PROFILE

photograph byNBAE/gettyimages/AFLO

posted2004/12/24 00:00

 毎年、NBAは選手を対象にした統計を発表する。それによると、開幕ロースターの平均身長は約201センチ、平均体重は約102キロである。最高身長はヤオ・ミンとショーン・ブラッドリーの229センチで、最高体重はシャキール・オニールの148キロ。そして、最も小さく、最も軽い選手は、今年もデンバー・ナゲッツのアール・ボイキンスだった。

 165センチ、60キロ。その身体は、巨人たちがうごめくNBAでは危険なほど小さく見える。関係者もそう感じたのだろう。大学を卒業したとき、彼はドラフトすらされなかった。控えガードとして評価を固めたのはここ数年のことである。

 1976年生まれのボイキンスは、地元の高校を卒業するとイースタンミシガン大へ進んだ。4年生時には平均25・7点、5・1アシストの活躍を見せ、オールアメリカンの候補にまでなっている。ドラフトに漏れた後、まず、マイナーリーグのCBAでプレー。それから、10日間契約でNBAのネッツへ。ネッツを解雇されると、キャバリアーズ、マジック、そして再びキャバリアーズ、それからLAに飛んでクリッパーズへ。まさに放浪の日々だった。

 どこに行っても出場時間はあまりもらえなかった。本当に問題なのは、実際のプレーではなく、身長が低いことに対する偏見や好奇の眼差しだった。キャバリアーズにいたころには、5フィート5インチ(165センチ)より背が低い観客は5ドル50セントで入場できるサービスもあったという。NBA史上2番目に背の低いボイキンスは、チームにとって良い見世物だったのだろう。

 そんな彼の道を切り開いたのが、シュート力という武器だった。ボイキンスがバスケットボールを始めたのは、バスケ好きの父親の影響だった。子供のころから大人に混じってプレーするうちに、彼はブロックを避けるためのクイックリリースを身につけたのだ。

 2002年、ボイキンスはついに人手不足のウォーリアーズでチャンスをつかむ。平均8・8点、スリーポイント率37・7%、フリースロー率86・5%(リーグ14位)の活躍。その得点力を買われ、オフシーズンにはナゲッツと5年間1370万ドル(約15億円)の長期契約を結ぶことができた。

 今季は、これまで平均12・5点、3・6アシスト。シュート力にさらに磨きがかかり、11月11日にはキャリアハイとなる32点をあげ、30点以上を取った史上最も背の低い選手となった(その後11月19日にも再び32得点を達成)。

 かつて、雑誌のインタビューで、「将来の目標はオールスターに選ばれること」と彼は語っていた。98年の時点でそれを笑い飛ばした者も、今では100%否定することはできないはずだ。ボイキンスはすでに不可能を可能にしているのだから。

次代のボイキンスを探せ。

 イーストテネシー州立大学のティム・スミスは、NBA入りが予想されるスターPG。スピードとクイックネスが売りだが、身長はNBA基準でいうとかなり低い。 175センチで公式登録されているものの、実際には170センチ程度だいう。2年生だった昨季は平均17・7点、4・4リバウンド、4・5アシストをあげ、チームをNCAAトーナメント出場へと導いた。再来年のドラフト時に2巡目後半で指名される、というのが米国ドラフト専門サイトの予想。気の早い話かもしれないが、タイロン・ボーグス(身長約160センチ)やボイキンスらの系譜を受け継ぐ選手として注目したい。

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