MLB Column from USABACK NUMBER

ヤンキース「大盤振る舞い」の大丈夫 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2009/01/06 00:00

ヤンキース「大盤振る舞い」の大丈夫<Number Web> photograph by AFLO

 前々回の本コラム(大型不況も何のその ヤンキース札びら攻勢の元気)でも予想したとおり、ヤンキースの大型補強が目立っている。1月3日現在、C・C・サバシア、A・J・バーネット、マーク・テシェラ三選手のFA契約に費やした年俸総額4億2350万ドルは、ヤンキース以外29球団の新規FA契約すべてを合わせた年俸総額3億4150万ドル(計40選手)を大幅に上回っているのだから、その「大盤振る舞い」のほどがわかるだろう。

 「世間全体が不況に見舞われているのに、ヤンキースはこんなに金を使いまくって大丈夫なのか」と心配する向きがあるようだが、ヤンキースの財政状態が極めて良好なことは前々回のコラムでも説明したとおりだ。しかし、私の説明の仕方が大雑把すぎたせいなのか、いまだに「ヤンキースは大丈夫か?」と心配する向きがあるようなので、以下、大丈夫な理由を詳細に説明しよう。

(1)入場料収入の大幅増:もともと、新ヤンキー・スタジアムは、「供給(客席総数)を減らし、相対的需要を上げることで単価を上げる」戦略の下に建設されたものである。新スタジアムでは、チケットの20%が売れ残ったとしても入場料収入は2億5000万ドルに達すると見積もられ、旧スタジアム時代の入場料収入(2005年の数字で1億5700万ドル)と比べ大幅に増加する(ちなみに、テレビ放映権料、球場内での飲食品販売収入等も含めた収入総額は4億ドル程度と言われている)。

(2)年俸支出の減少:今回大型契約を結んだ上述3選手の2009年の年俸額はサバシア1400万ドル、テシェラ2000万ドル、バーネット1650万ドルの計5050万ドル。一方、昨季限りで退団した高給取り選手の2008年度の年俸額は、ジェイソン・ジアンビ2100万ドル、ボビー・アブレイユ1600万ドル、アンディ・ペティート1600万ドル、マイク・ムッシーナ1100万ドル、カール・パバーノ1100万ドルの計7500万ドル。大盤振る舞いしているとはいっても、今季の年俸総額は昨季よりも大幅に減っているのである(最終的にチーム全体の年俸総額は昨季とほぼ同じ規模になると予想されている)。

(3)ラグジュアリー・ボックス増設による収入増:新ヤンキー・スタジアムではラグジュアリー・ボックス(年間使用料は1室60万-85万ドル)の数を大幅に増やしたことが収入増の要になっているのだが、すでに51室中44室を販売、売れ残っているのは最低価格帯7室のみとなっている(「売れ残っている」とはいっても、1試合当たりの「ばら売り」となるだけなので、売り上げがゼロとなるわけではない)。また、不況が進めばラグジュアリー・ボックスのキャンセルも増えると心配する向きがあるようだが、チケット・ビジネスは「完全前払い・払い戻し不可」が原則なので「キャンセル」の心配は不要であるし、ラグジュアリー・ボックスについては「最低5年継続(キャンセル不可)」が購入の条件となっている。

(4)収入分配制度拠出金の大幅減:「収入分配制度」とは、金満球団がMLB機構に収入の一部を拠出、貧乏球団にその金を配る制度である。ヤンキースの場合、これまで年額1億ドルほどの拠出金をMLBに差し出してきたが、2009年以降は新スタジアム建設のコストが控除されるため、拠出金額は大幅に減少する(ヤンキースが新球場を建設した結果、貧乏球団の収入が減ることになるのである)

(5)借地料の激減:旧スタジアム時代、ヤンキースは地主であるニューヨーク市に対し年額1000万ドルの借地料を払っていたが、新スタジアムではわずか10ドルに減額されることが決まっている(市は、新スタジアムのインフラ整備に4億ドルを支出するなど、ヤンキースの市外転出を防止するために数々の優遇処置を提供してきたが、地代の減額もその一つである)。

(6)スポンサー契約:自動車メーカーのGMがスポンサー契約を更新しなかったことを問題にする向きがあるが、すでに、アウディ、トヨタが新たなスポンサーになることが決まっている。

 以上、ヤンキースが大盤振る舞いしても大丈夫な理由を列挙したが、大型不況の下でもヤンキースは「別格」という事情が、少しはおわかりいただけただろうか。とはいっても、貧乏球団のファンにとって、ヤンキースが財力に物を言わせて好選手をかき集めるやり方がおもしろくないのはたしかだ。しかし、逆に、ヤンキース・ファンの立場に立ってみれば、財力があるのに選手に金を使うことをけちったりしたら、それこそ「背信行為」となろう。ヤンキースの経営陣にとって、好選手に投資する行為はファンに対する義務を果たしているにすぎないのである。しかも、ヤンキースが年俸を大盤振る舞いすれば「ぜいたく税」の支払いも増え、他球団にとっては収入増になるのだから、貧乏球団の経営者が「(自分たちが始めから取る気のない)スター選手をヤンキースが大金で獲得した」からといって文句を言うのは「筋違い」というものだろう。

 他チームのファンや経営陣がヤンキースの金の使い方に腹を立てる気持ちはわからないではないが、ここで忘れてならないのは「金をたくさん使ったからといって強くなる保証は何もない」という極めて単純な真理である。たとえば、2001年以降ワールドシリーズに優勝した7チームのうち、年俸総額が1億ドルを超えた金満チームはレッドソックス(2004年、2007年)1チームのみであるし、昨オフ、大盤振る舞いの補強で「2008年優勝候補の筆頭」に躍り出たタイガースは、優勝するどころかア・リーグ中地区最下位に終わる屈辱を味わった(しかもリーグ優勝したのは年俸総額リーグ最下位のレイズだった)。ヤンキースが「たくさん」金を使っていること自体に目くじらを立てるよりも、「賢い」金の使い方をしているかどうかを冷静に分析する方が、はるかに重要だと思うのだがどうだろう。

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