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飛ぶボールが野球を壊す。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

PROFILE

posted2004/05/11 00:00

 5月4日のベイスターズとジャイアンツの試合でのことだが、1回裏にベイスターズ2番の内川が上原の投げたフォークボールを左手一本で引っかけるようにして打ったのが、横浜球場の高いフェンスを越えてレフトスタンドに飛びこんでしまったのを見た。おどろいた。

 そのときテレビで解説者をつとめていたのはベイスターズのピッチャーだった斉藤明夫氏だったが、彼もおどろいたらしく、

「ぼくらがやっていたころは、あんな打ち方では絶対にホームーランになりませんでしたけどね」

 といっていた。

 しかしそれも、近ごろのホームランの際限もなく飛んでゆく飛距離を見ていると、納得がいく。とくに東京ドームでのホームランはすさまじく、スタンドの最上段に飛びこむのはあたりまえで、その上の大看板に当たるというのもいまや珍しいことではない。先日は、ベイスターズのウッズがさらにその上の照明灯に当てたが、推定飛距離は160メートルだったそうだ。つまり、いまのボールはまともに当たれば130メートルや140メートルはらくらく飛び、当たらなくても100メートルのフェンスぐらいは越えてしまうのである。

 これではピッチャーはたまらないだろう。まともにとらえたボールならともかく、泳がせたり詰まらせたりして、うちとったボールまでスタンドに持っていかれてしまうのである。

 それは彼らの防御率にも如実にあらわれている。5月11日現在のセ・リーグの防御率1位は、タイガースの藪の1.83だが、2点台は2人しかいず、10位に5.06のベイスターズの三浦が入っている。パ・リーグも同様で、1位はバッファローズの川尻の2.05だが、10位はファイターズの金村の4.38なのである。一流ピッチャーとそうでないピッチャーを分ける目安が2点台の防御率だったころには考えられないことだった。

 当然のことながら、平均防御率もうなぎ上りになっている。

 長すぎる試合時間を短くするために、ストライクゾーンを拡大してピッチャーに有利にしたのは一昨年だった。その結果、平均防御率はその前年にくらべて、セ・リーグが3.78から3.66に、パ・リーグは4.37から3.76に下がった。ところが2年後のいまはセ・リーグが4.71、パ・リーグは4.79と、まもなく5点台というとこまで上昇しているのである。

 パ・リーグの多くのチームがミズノ社のボールを使い、それが飛びすぎると問題になって、下田武三コミッショナーによって使用禁止の措置がとられたのは1981年だった。いまの状況はあのときとよく似ている。その飛ぶボールが使われた最後の'80年のパ・リーグの平均防御率が4.64だったのである(同じ年のセ・リーグは3.64だった)。

 おそらく、また同じことが起きているのである。しかもこんどは、セ・パの両リーグで。誰がこんな野球をよしとしているのか知らないが、ぼくはどんな打球でもゴルフボールのようにポンポンとスタンドに飛びこんでいくホームランを見るたび、野球が壊れていくのを見ているような気がして、暗澹たる気分でいる。

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