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チェルシーは2年間の選手獲得禁止。
プレミアに下ったFIFAの残酷な鉄槌。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2009/09/24 11:30

チェルシーは2年間の選手獲得禁止。プレミアに下ったFIFAの残酷な鉄槌。<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

ブラッターはどこまで本気で“青田買い”を阻止しようとしているのか。写真は今年7月オバマ米大統領と会談後の記者会見時のもの

 FIFAの手によってプレミアリーグが揺れている。

 9月初旬、サッカー界の“御上”は、若手の引き抜きに違法行為があったとしてチェルシーを厳罰に処した。2年前に、当時16歳だったMFのガエル・カクタをランス(フランス)から移籍金なしで“奪った”ことが違法とみなされたのだ。ランスは当人が14歳の時点で事前(プロ)契約を結んでいたと主張し、FIFAへ提訴。それが認められ、チェルシーに1億円台の罰金と再来年1月までの選手獲得禁止という極めて厳しい処分が下ったのだ。

 これと同時にFIFAはマンチェスター・Uとマンチェスター・Cに対しても、同様の容疑で裁きを受ける可能性がある旨を告げた。マンチェスターの両軍もル・アーブルとレンヌ(いずれもフランス)に訴えられているのだ。現時点では、両クラブともポール・ポグバ(マンU)とジェレミー・エラン(マンC)のユース入りにやましい部分はないと余裕の構えを見せているが……。

ユース選手の移籍は「若年層の人身売買」なのか?

 FIFAのゼップ・ブラッター会長の目的は「若年層の人身売買」と非難される、行き過ぎた「青田買い」に歯止めを掛けることにあるようだ。9月9日には「(違犯があった場合)リーグでのポイント剥奪を検討してもらいたい」と、英国内の各FAに呼び掛けている。ユースレベルでの移籍に関して、「そもそも10代という若さが問題だ」とまで言う同会長にすれば、イングランドのクラブへの制裁は最高の見せしめと考えているに違いない。

 ユース選手の引き抜き自体は、欧州全般で増加の一途を辿っている。たとえば、昨季のCLを制したバルセロナが誇るリオネル・メッシも、9年前に13歳で母国アルゼンチンからスペインへと渡った「青田組」だ。しかし、巨額の“TVマネー”で潤い、「金満」のレッテルが貼られているプレミア勢はやはり突出しているのだ。16歳でフェデリコ・マケダをマンUに取られたラツィオ(イタリア)の会長は、昨今のユースシーンを「金持ちがキャッシュ・カウ(有望株)を買い漁る牛市場」と評し、プレミア勢を批判している。ランスの会長は、若手を焚き付けて青田買いを成功させるやり方を「十中八、九イングランド勢の仕業」とまで言っている。

売り手も買い手も選手もその家族も……罪を共有する。

 だが、買い手を戒めれば事が解決するとは思えない。ランスは「8歳半から育てた選手をさらわれた」と、まるで子供を誘拐された親のようなことを言っていたが、チェルシーを訴えたのは、カクタを失ったからではなく、その代償を得られなかったからだろう。ランスは提訴前にチェルシーに対して7億円弱で示談を持ち掛けている。チェルシーが素直に応じていれば、FIFAの出る幕はなかったのだ。実際、チェルシーには、フェイエノールト(オランダ)やコペンハーゲン(デンマーク)からのユース選手獲得に際し、“口止め料”で疑惑を揉み消したという疑惑の過去もある。

 また、売り手と同様に「買われる」側の意思が働いている点も無視することはできない。プロを夢見るサッカー少年が、ビッグクラブの誘いに惹かれないわけがない。前述のマケダの例がそうであるように、1年早く夢が叶う(イタリアの18歳に対してイングランドでは17歳でプロ契約が可能)となれば尚更だろう。保護者として代理人の役割を兼ねる親にしても、16歳の息子が1年後には週給50万円以上を稼ぐと言われれば(マンUがポグバに提示したとされる条件)、異国への移住も前向きに検討できる。そもそも富裕層のスポーツではないサッカーの世界には、息子の才能に自らの将来をも託す“サッカー・パパ”や“サッカー・ママ”が溢れている。つい先日も、息子の進路決定に1億円近い謝礼金を受け取った父親や、カリブ海の島に一軒屋を要求した母親の話が、ゴシップネタに強い『サン』紙に掲載されていた。

【次ページ】 外国から家族ぐるみで移住・移籍させるという公然の秘密。

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